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□滑稽な主人公たちと、滑稽な脇役Aと
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チャイムの音が授業の終わりを告げ、生徒たちは号令にだらだらと従うと、それぞれだらだらと行動を始める。教室を出る子、友達と話始める子、机上を整頓する子、みんなばらばらだ。そんな中、私と隣に座る友人は席に座ったままだった。

「やっぱりあの先生かっこいいなぁ、若いし。」
「クス、それ付き合いたいって事?」
「え、もちろん!!歳上の彼氏って憧れるよねぇ…」
「でもそれ、犯罪よ?」

授業後、未だ教卓で資料を纏めている例の先生を見つめる私の呟きに、横に居る友人である少女がそう答えた。別にあなたには関係ないじゃない。良いでしょ、見蕩れる位。私はあなたと違って美人でもなければ頭も良くないの。わからないでしょ?心の中でそう思っても、私は口にしない。敵わないとわかっているから。

「ふ、あの人既婚者じゃない。子供も居るわよ。」
「…あ、そ。」

先生の事を"あの人"と呼ぶのも気にくわない。何なの。何なの何なの。
━━きっと彼女は、わかってる。私が彼女を僻んでいることも、羨ましいと思っていることも。彼女はいつだって何でもできて、美人で可憐だ。クラスの男子だけじゃない、他の学年からも彼女は注目されている。でも、女子に嫌われることはない。勉強を教えてくれるし、面白いし、困っていたら手伝ってもくれる。
なぁんだ、顔だけじゃなくて性格も良いのか。敵わないなんて、前提なんだ。
でも、彼女が誰かと付き合っているなんていう噂は全くと言って良いほど聞かなかった。男に興味がないようにすら見えたぐらいだ。

だから、

だから私は、"あの光景"を見たとき驚いて。あ ん な 彼女を見たことがなかったから、知らなかったから。彼女だけじゃない━━━

「センセ、女の子に人気なんだね。」
「え、そうなの?」
「うん。」
「…不安?」
「まさか。センセに二股+不倫なんて勇気ないでしょ。」
「言うねえ。」
「私で精一杯で…ッんっ…は、…っぁ…」

2人が、キスを、していた。最初の光景を見た時からなんだか近いとは思っていたけれど、2人の声が聞いたことのないくらい、━━目眩がするぐらい━━甘いとは思っていたけれど。キスをしている彼女の声は色っぽくて艶かしくて、そして先生は、オトコの人だった。
…あぁ、でも本当に驚いた。彼女が抵抗もせずに素直に先生を受け入れた事も、キスを先生からした事も。本当笑える。渇いた笑い声なら、幾らでも出せそうだ。あはは、あはは。何故だろう。声に出してはいないけれどせめて心の中で笑っているつもりなのに、何故、涙が出るの。何故苦しいの。何故彼女を羨ましいと思うの、何故自分が不幸だと思うの。

━━━美人で頭がよくて、しかもカッコいい彼氏がいるなんて。僻まない人が何処にいるの。しかも自分が好きだった人となんて。

そうよ、初恋だったのよ、先生が本当に好きだったのよ、初めて見蕩れて初めて優しくされて、私は初めて好きになったのよ。ねえ、知ってたかしら?ねえ。暖かくて優しい彼といるあなたは幸せなんでしょうね。きっと私の知らない彼の一面なんていうのも知っているんでしょうね。私もそこに居られたの?あなたはどうやってそこにいるの?あなたこの間犯罪とか言わなかったっけ?彼既婚者じゃなかったの?ねえ、いつからなの?ねえ、答えてよ。答えなさいよ。幸せそうに笑っちゃって。本当に、羨ましくって憎たらしい。

━━━それでも私にあなたと先生の笑顔を壊す勇気はないんだ。なんて滑稽なんだろう、私は。




滑稽な主人公たちと、滑稽な脇役Aと

(先生、大好きでした。言えないけど。)


初恋純情少女の失恋の話。


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