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□君の背中
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愛していた。愛していたんだ。
だけど、それと同じくらいに君に意地悪をしたくてたまらなかった。君のむきになる顔が、握られた小さな拳が、その全てが愛おしかった。ただただ、愛おしくて仕方がなかった。独り占めしたいと思った。いっそ殺してしまいたくなるほどに、君が愛おしかった。だけれど、いつまでも君の鼓動を聞いていたかった。僕だけに、その心臓の音を聞かせて欲しかった。
「馬鹿なんじゃないの?」
思えば、ここ最近はその強がった声を聞かなかったなと、今更ながらに思う。それだけじゃない。その声のあとに必ず見える笑顔も、見なくなっていた。
だから僕は、更にむきになって意地悪をしていたのだろう。その、笑顔の代わりに見るようになった君の苦しそうな顔なんて知らないフリをしたのは間違いなく僕だ。
僕は、本物の馬鹿だった。
「…ッハッ…ハァッ」
屋上への階段を駆け上がる。脚の痛みなんて知ったこっちゃない。早く、屋上の蒼にたどり着かなければ、早く、早く、
今は、君の元に早く…!!
屋上のドアから、綺麗な蒼が溢れ出す。いや、でも。君のほうがよっぽど綺麗だ。
「さようなら。大好きでした。」
「僕も、君が…!!」
いつも拗ねるその愛しい背中が、僕の席から良く見えるその背中が、大好きで大好きで仕方のない背中が。
僕の視界から消えた。
君の背中に叫んだ愛の言葉は、届かずに屋上に消えた。