book

□貴方の唾液で溺死したい
1ページ/1ページ




貴方からの着信を待つイヤホンで首が締まって死ねたら良いのにと思った。火曜日の深夜1時の事だった。デバイスの明かりがやけに明るかった。そうしてまた、その光で目が焼けてしまえば良いのにと思った。酷く苦しかった。楽になりたかった。そんな犯罪者の言い訳のような事を考えながら、私は貴方の匂いのない布団に潜り込んでいた。

日曜日、今日が月曜日…ではなく時間的に正確に言えばもう火曜日だから一昨日、貴方は私に愛してると言って体温が混ざるように私を抱いてくれた。その時は、私だって汗ばんだ身体など気にすることなく貴方の腕の中で溢れんばかりの愛に溺れて、愛の海に満たされていたのだけれど。でも、私はバカなので、離れてしまった途端に貴方の体温を忘れてしまうのだ。だから私はいつだって貴方に触れていたかった。触れていないと不安だった。愛を辿って思い出す貴方の体温は、いつだって寂しいかった。だからかはわからないが、私は貴方の匂いも、体温も、力も、肌触りも、髪質も、全て全て触っていないとわからなくなってしまったのだ。私はきっと、貴方さえ居てくれればよかったから。貴方さえ見えていればよかったから。貴方さえ聞こえていればよかったから。

なのに、どうしてかはわからないけれど、私と一生切れない螺旋で繋がった神様はこうやって私が貴方に溺れるのが、どうしても許せないらしいのだ。

「お前は誰にも必要とされないし、誰にも愛されないよ。きっと捨てられるさ。その時泣くのはお前だよ。苦しみたくないなら離れるべきだ。」

どうしてそう言われるのかなんて、そんな事はわかっていた。私が我が儘だからだ。私がバカだからだ。私ができそこないだからだ。神様はそれを一番知っていたから。だけれど、私にとってそんな理由などどうでも良かった。神様に詰め込まれた今の私の存在否定だけが、私の腹の中で繁殖していたから。繁殖しすぎて吐きそうになって、私は貴方以外を全て嫌いになってしまいそうなのだ。

「(布団、嫌い。枕、柔らかいから嫌い。シーツ、大嫌い。そこには何もない。お父さんとお母さんの布団には愛が満ち溢れている。ああ妬ましい。二人なんて愛し合わなければよかったのに。そうしたら私は産まれなかったのに。苦しくなかったのに。自分なんて大嫌いだ。きっと、ずっと付きまとう螺旋をピリビリに千切ってしまいたい。ああでも、死ぬのなら、…。)」




死ぬのなら、貴方の唾液で溺死したい。



(ねえ、溺れさせて。)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ