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□海に沈んで藻屑となって
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『ねえ、ねえ。

私のどこが好きなの?
どんな風に好きなの?
今何してるの?
今日何してたの?
どうして返信くれないの?
不安なのは私だけなの?
私の気持ち知ってるの?

ねえ、

ねえ。』


ずっとずっと。
溢れんばかりの疑問は私の中で廻り続けている。血液と一緒に。赤血球と一緒に。酸素と一緒に。ぐるぐるぐるぐる。廻っている。それでも、私は聞けないのだ。愛しすぎて恋しすぎて仕方のない貴方に、私は。聞けないのだ。


「(もし面倒くさいと思われたら。
もし嫌われたら。
もし愛されていなかったら。)」


不安で、不安で、不安で。泣くこともできないのだ。

「(嗚呼、だから。だからこの世界なんて生き物なんて人間なんて心なんて自分なんて。大嫌いよ。)」

私をこんな風にした貴方が愛しくて、責任を取れとも言えないの。どうすればいいの?

「(なんてね、聞けるわけないじゃない。アホらしい。声をかけることすら躊躇うのに。想うことしかできないのに。笑うこともできないのに。手の温もりも洩れる吐息も絡まる唾液も全部抱えているのに。馬鹿にすらなれないのに。貴方に近づけないのに。一回越えた線を戻って、また踏み込む勇気なんてないのに。)」


いっそ、ずっと体の中で廻り続けているこの気持ちごと一緒に、海に沈んでしまえたらいいのにと、そう考え始めたら体は重くなっていって。深海の蒼は私を受け入れるように優しかった。そうして見える空はひどく、残酷なほど綺麗だった。さざ波に身を任せれば、楽になれるようだった。

「(貴方に会えないこの日々がいつまで続くかわからないけれど、今はもう、意識の海に沈んで藻屑となれ。なんて、そうなれたらどれだけ幸せなんだろう。私は、あなたを好きでいる幸せと、楽になる幸せと、どちらを選べばいいのだろう。)」



海に沈んで藻屑となって

「溺れて、瞬きをして、窒息して、水死体になって、沈んで、藻屑になって、そうしたら楽になれるんだろうか。海の底に沈めば、楽になれるんだろうか。」

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