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□その涙は誰のもの
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「(つまんない)」

帰りのバスの中、志音は不貞腐れていた。何故なら、思い人が相手にしてくれないからである。先程から彼女は志音に背を向けて友人と話していて、志音がちょっかいを出しても少し反応して振り向くだけですぐに再び背を向けてしまうのだ。

僕だって彼女と話したいのに、なんでこっちを向いてくれないんだ馬鹿。…なんてくだらない嫉妬なんだろう、と思われるだろうが、志音にとっては大事な事だった。今日1日彼女に相手にされていないのである。チョコをあげても馬鹿にしても鞄を運んでも微笑んでも名前を呼んでも、彼女は志音の方を向かない。(こちらを向いたとしても、何?で終わってしまうかすぐに違う方に行ってしまうか、だ。)タイミングが悪いのか、はたまた聞こえていないのか、それとも…それとも嫌われたか。一気に不安が身体の中をかけ上がる。それだけは…と思いつつも今までの自分の行動を考えれば有り得ない話ではない気もするような…そう思ったら世界すら揺れている気がした。揺れているのは自分の心だ。

「、馬鹿。」

そう呟いても、当然彼女の耳には届かない。彼女どころか、きっと誰にも届いていないだろう。未だに志音に背を向けて話している彼女と、友人の笑い声が反響しているような気がした。反響して、こだまして、志音の胸に響く。それがまた志音の寂しさと不安を倍増させた。なんだか蚊帳の外にいるような、まるで僕だけ仲間はずれにされているような、そんな気分だ。苦しくて泣きたくなる。志音は眉間に皺をよせて瞼を降ろした。寂しい時や我慢する時そうするのが癖なのだ。だけれど、そうやってシャッターを降ろしても、笑い声は聞こえて来て志音は眉間の皺を深める。

あぁ、涙が出てきそうだ。嫌だ。一人は嫌いだ。嫌だ。気づいて。嫌だ。苦しい。嫌だ。こんなの、こんなの。嫌だ。笑わないで。嫌だ。嘘、笑ってて。でも嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

「(ここで泣いたら、気づいてもらえるかな。驚くかな。心配してくれるかな。君は、僕をなんて思うんだろう。泣き顔が綺麗だと思うかな。笑いかけてくれるかな。頭を撫でてくれるかな。愛して、くれるかな。)」

きっと答えは全てNO、だ。気づいてすら貰えない。わかってる、知ってる。胸が苦しくったって、僕らはそれを伝える術を知らない。なんて不便な世界なんだろう。瞳の中の世界に君がいない。

「(いつまで、苦しいんだろう。)」





━━━━━━━━━━…苦しい、そう思ったのを最後にシオンはハッと目覚める。抱き締めていた枕は濡れていて、眉間の辺りが痛い。心臓がドクドクと早鐘を打っていて、口の中はカラカラに渇いている。今にも死にそうなほどに苦しく感じている自分に嫌気が差した。"向こうの世界"で志音が片想いをしていたと言う彼女と出会ってからと言うもの、以前より頻繁に"志音"の夢を見るようになったのだ。そして夢から醒めても苦しさや不安がまだ身体中を血液と一緒に廻っているような気がしてたまらない。シオンは布団を手繰りよせてから、ベットヘッドにもたれ掛かった。ふう、と息を吐いて携帯を手に取ると、液晶が今午前3時であることを教えてくれる。流石に今から朝まで起きていたら明日に響くだろうと携帯を閉じた。家がやけに静かに感じてそれがまた寂しさを煽って、不安になって…。

「、馬鹿。」

ぽつりと呟いて瞼を降ろす。少しだけ、"志音"と寂しさを共有できた気がしたのを最後にシオンはまた意識を眠りの底に預けた。


そのは誰のもの





皆様お久しぶりです。ちふです。
今回はパラレルワールドの2人の恋のお話を連載として書こう思います。
実はこの話は元々書こうとしていた長編小説の一部なんですが。携帯の保存フォルダの中で眠っていたのを発見して書き直したんですね。
かなり思い入れがあるお話なので長くなるかと思いますがお付きあいお願いします。では。


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