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□無題(no title)
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その日私は、君に抱かれたベッドで寝たのでした。
例えば、
汗まみれの背中に掴まる感覚や
ふとキスをした感触や
押し付けられた肩の痛みや
何かを飛び越えたかのような快感や
深く空けられたそれを抉られる衝撃や
胸の棘を、舐める、痺れ、
雨のような君の愛を、思い出して、
あの時流れた涙は、なんだったのだろうと考えるのです。
もう麻痺して傷ついたのかもわからない。そんな私の小さくて、でも大きな、傷跡に泣くこどもの泣き声のようなそれに、君は優しく涙した。いや、実際君は泣いてなどいなかったけれど。君の、雨露に濡れた朝顔のような煌めく瞳の奥の、黒くて暖かいもの、見つめれば君は恥ずかしがるけれど、決して手の届かないガラスでできた温もり。それの愛しさに漸く気づいたのです。バカみたいと思うかもしれませんが、君のためなら、なんて事も考えました。まあ、きっと君はそんなことを望んでないでしょうから、想像も程々に。
そんな夜です。
蝉や鳥は泣いていませんでした。とても静かな夜で、曇っていて星は見えませんでした。君は、なにをしているのでしょうか?
君の必死な、アの時の私の心を貫く瞳が、視線が、きっとまた思い出せなくなって、切なくなるのでしょう私は。それまでは、そう、君のために、必死に生きてみようと思うのです。
無題(no title)