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□金属バットで夢を見る
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その日、夢を見た。夢なのか夢ではないのかわからないような、そんな夢だった。

場所は、暗いけれど、知っている。見えるのは私によく似た男の人の顔だ。薄く髭が生えていて、くせっ毛の、私によく似た、醜い瞳。自分を見ているような気になるほど似たその人の首を、私は今自分の手で絞めている。その人の口が、ぱくぱくと何か言おうとしていて、私は手にこめる力を強めた。手に触れるざらりとした肌の感覚が妙に夢らしくない。それだけでなく、冬だというのに顔や体に纏う湿ったぬるい空気や首にはりつく髪の毛や冷えた足先も、とても生々しくて、いっそ頭をがつんと殴られたいような、そんな衝動さえ起こる。息が、とても荒いのが自分でもわかった。私の下では男がもがいている。

「あなたが!!」

息も浅いのに、声が出た。一度深く息を吸って、もう一度手に力をこめた。

「あなたがあんな風に、あんな風に、舌打ちだとか、するから、死にたくなる、から、だから、あなたを殺さなきゃいけなくて、あ、あなたが、ああやって、私を何度も、言葉で殺すから、だから、あなたを殺す、しか、なくて、だから、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

手に何かが触れた。力をこめすぎた手には、もうほとんど血は通っていない。だから触れた何かが温かいのか、冷たいのかも、手の中のそれが温かいのか、冷たいのかもわからない。

「私は、どこに生まれればよかったの、どうすればよかったの、あなたが、あなたが大切に大切に育てた私は、あなたが傷つかないように育てた私は、まだ子供の私は、一人で生きられない私は、ただあなたに愛されたかっただけなのに、あなたに認められたかっただけなのに、あなたの、笑顔が、見たかっただけなのに、どうして笑って私の名を呼ばないの、私は、でき損ないだけど、でも、その前にあ━━━━━━━━


シナプスの焼ける音がした。



金属バットで夢を見る


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