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□君を抱く
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「まだ、私の事好き?」

そう問うてもどうにもならないことを、彼女はよく知っているはずだった。それでも問うのだと、問い続けるのだと、彼女は言っていた。そして今度は僕が言われる番だ。いま目の前にいる彼女に表情はない。相変わらず薄化粧でもよく映える顔立ちの彼女の口にはもう触れられない。化粧品を少し変えたらしく一段と「愛らしかった」。

彼女が瞬きをする。瞳の焦点が合っているかなど、僕からは確認できない。なぜなら彼女は僕を見ていないから。きっと彼女は僕に罪悪感を抱いているから。つい先ほど別れを告げた男と目を合わせて話が出来るほど、彼女は大人ではない。

それでも皮肉なことに、彼女は子供でもない。

愛され方を知っている。

儚い微笑み方を知っている。

触れ方を知っている。それはとても切ない。

泣き方は知らないくせに、啼き方を知っている。


それでも馬鹿らしいことに、愛した男のあしらい方はまだ半分なのだ。
自分の抱えた重石をちらつかせ仕方ないでしょうと言いながら、それなら一緒に持ってと甘えればいいものを、彼女はそれが出来ないのだ。

「嫌いだよ。とても。」

僕を傷つけてわかってよ、なんて言う君が嫌いだ。それでもまだ自分のことを好きか聞く君が嫌いだ。愛され方を知った笑顔が嫌いだ。そうやって次の男に抱かれるしかできない君が嫌いだ。重石を持ったまま泣くことができない君が嫌いだ。

そうやって、唇を噛んで泣かない君が嫌いだ。僕の夢に出てきては「愛してる」なんて囁く、君が嫌いだ。意地っ張りで、強がりな君が嫌いだ。

「それでも君を抱くことはできるよ。」

こう言えば微笑む君が、嫌いだ。





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