滅曇士

□二夜目
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地上に住むことができなくなった人々は、地下に都市を築くことで住処を確保した。アンダーグラウンドシティと呼ばれるその住居空間は、複数のコロニーに分かれて分布しており、人々の手によって今も拡大し続けている。

そのうちのひとつ。新央区と通称されるアンダーグラウンドシティに、時子は足を踏み入れていた。低い天井。細い通路。その昔、かつてテナントが並んでいたそこは完全に壁で仕切られており、現在は居住空間としての機能を果たしているとわかる。

「着いたぞ」

先を歩く少年、定は一点を指差して無邪気な笑顔で言った。時子はさして興味なさそうに、その先へと目をやる。そこにあったのは、白く味気ない外壁の中にぽつんと存在する一枚の扉だけ。定はバイクを止めると、子供のように走って中に入っていった。

「ただいま――痛っ!」
「定。おまえ、ただの郵便配達にどれだけ時間かけてるんだ?」

だが、彼を迎えたのはおかえりの言葉ではなく、拳骨と説教だった。時子が遅れて中に入ると、そこには定を見下ろす白衣の男がいた。

「そんなこと言うなって、怜央。おかげで新メンバー見つけて来たんだからよ!」

しかし、定は痛みにかすかに涙目になりながらも、男に訴えかける。するとその時、鬱陶しいと言わんばかりの声が、空間の奥から聞こえてきた。

「騒がしいわね。定、帰ってきてるの?」

次いでやや不機嫌な表情と、スラリと伸びた肢体が姿を見せる。ひとつに結い上げた長い髪を揺らしながら現れたのは、日本人にしては長身の女性だった。入口へと視線を向けた彼女は、定以外の見慣れない姿にすぐ気づいたようだ。

「定、誰なの? その子」

女性が定に訝しげに尋ねると同時に、男も視線で彼に問いかける。

「だからさっきから言ってるだろ! こいつが新メンバーの……なんつったっけ?」
「おい……」

定は二人に声を大きくするが、肝心なところで自ら首を傾げてしまった。これにはさすがに、二人してがっくりと大きなため息を吐いた。

「……日向時子だ」

時子も彼らと共にため息を吐くと、淡々と名を告げた。それに続いて、二人も気を取り直して自己紹介をした。

「皆木怜央だ」
「はじめまして。都筑眞矢よ」

男は怜央と名乗り、そして眞矢は笑みを浮かべて時子に答えた。それから眞矢はずい、と顔を定に近づけ、問いかけた。

「それで、定。この子、新メンバーって言った?」
「ああ」
「ふうん。武器は――持ってるみたいだけど、実戦経験は?」
「七年」

眞矢はまじまじと時子を見つめ、少年へ興味から質問を投げかける。

しかし、それに答えたのは――当然と言うべきか――時子で、眞矢はその返事に少なからず目を丸くした。
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