一途の流れ星

□初めての関係
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***



「麻美ちゃん!」
「すみません。待ちました?」
「平気だよ。行こうか」
「はい」

そしてあの日以来、あたしは毎日龍介先輩と下校するようになった。部活が休みの日以外で通い慣れたテニスコートに寄らないというのは、はじめのうちはなんだか変な気がしたけれど、すぐにその違和感は消えた。彼のあたしの呼び方も「浅野」から「麻美ちゃん」に変わって、そしてあたしも、彼のことを「藤川先輩」から「龍介先輩」と呼ぶように言われた。始めは呼びなれなくて恥ずかしかったけど、今はもうすっかり慣れた。

学校にいる間は自分自身に独りだ≠ネんて自己暗示をかけてはいるけど、龍介先輩と一緒の時はそんなことをする必要が無い。あたしの味方でいてくれる――その事実だけで、簡単に心を許せた。

「あれから、教室ではどうなんだ?」

帰り道、龍介先輩は心配そうな顔をして尋ねた。あたしは教室での風景を少し思い浮かべ、なんとなく笑いながら答えた。

「何もないですよ。存在感ゼロです」
「笑って言うことじゃないだろう、それ」
「いえ、むしろ清々しくて気持ちがいいですから。龍介先輩こそ、あたしのせいで嫌な目に遭ったりしてませんか?」

集団で無視をされると言うのは、なかなか立派ないじめだろう。けど、目に見える被害がないぶん、余計な事にお金を使うことはない。むしろ、誰かに対して気を遣わなくてもよくなったと考えれば、案外今の状況は苦にならないものだ。
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