ミドリンより!
□『っ…私やります!』
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『ス、テージ…』
「あぁ、俺は監督からそう聞いたが、君は何も聞いていないのか?」
『はい。
いきなり挨拶してこいとしか…』
「そうか。
それともう一つなんだがな、君をあのステージで踊らせろ、と言われたんだが…」
『はっ!?』
「それも聞いていないか。」
と、苦笑いを浮かべる大坪。
一方の彼女も聞いていなっかた事ばかりでかなり混乱していた。
『(いやいや、麗夕さん何やってんですか本当に!!
どうしよう…)』
「聞いていないなら仕方ないな。」
『っ…私やります!』
また今度、と言う大坪を遮って咄嗟にそう言った。
「でも聞いていなかったんだろう?」
『それでも、体育館の一部をお借りさせていただけるからには、皆さんに把握していてもらう必要もありますし…』
「そうか。
なら俺達もちょうど休憩を入れようとしていたところだし、ただ休むよりはいいかもな。」
『ありがとうございます。
あの、じゃあステージお借りします。』
一度頭を下げて、ステージの方へ歩いていった。
「おいおい、俺ら全然話ついていけねーんだけど。」
「いや、これからわかるさ。」
「はぁ?」
何も知らない部員を無視して勝手に話を勧められ、いきなりステージで踊るなんて事態になりさらに状況が掴めなくなった部員。
その頃…
『麗夕さんがCDとジャージとシューズ持たせた意味ってこれだったんだ…』
そう、彼女はここに来る前に丘咲にCDとジャージ、シューズを押し付けられていた。
『人前なんていつ以来だろ…』
懐かしもうと目を閉じたが、すぐにまた目を開けた。
『っ…駄目だ…、』
楽しい思い出なんて、彼女が覚えてる記憶には一つもない。
あるのは"絶望"と"恐怖"
『兎に角、今は踊らなくちゃ。』
スッと立ち上がり、舞台袖からステージの真ん中へ進んだ。
前に向き直ればバスケ部員全員がこちらを見ていた。
「踊るって、龍皇寺ちゃん何かやってんの?」
「見てからのお楽しみ、と言うやつだ。」
大坪はどこか楽しそうに言ってくる。
「ダンス…にしては大人し過ぎるし…
真んちゃんどう思う?」
「知るか…」
「えー、つまんねーの。」
素っ気なく返した彼。
キセキの世代緑間真太郎。
そんな態度に動じずに話し掛けるのは彼女と同じクラスの高尾。
仮入部一日目にもかかわらず部に打ち解けられているのは、彼の持ち前の明るさ故だ。
『じゃあ、始めます。』
「あぁ、再生は俺が押すぞ。」
『あ、すいません。
あのもしかして大坪さん…』
「丘咲先生からは聞いてるぞ。」
『やっぱり。あの期待はしないで下さいね?』
「ははっ、謙虚になるな。
あいつらの度肝抜いてやってくれ。」
『っ、全力は尽くします。』
いらないプレッシャーをかけられてしまった、と彼女は思った。
彼女はまた位置についき体制を整えていた。
チラリと前を見れば、部員達がこちらを見ていた。
だが一番彼女の視界に入ったのは、やはり彼、緑間真太郎だった。
すると、むこうも視線に気が付いたのか目が合ってしまった。
『(あ、)』
その瞬間クラシックが流れ始めた。
やはり長年続けてきただけあって、曲が始まると体が動いてしまう。
『(やっぱりちょっと動き辛いな。)』
今までの分のブランクはやはり大きい様だ。
そんな事を考えてるうちにいつの間にか曲が終わっていた。
と、言うのが彼女の感覚だが、バスケ部員達にとっては周りの、自分達の時が止まり、彼女の周りだけが動いているような錯覚にあった。
「すっげ…」
誰かがポツリと呟いた。
「いや、見事だったよ。」
「監督、」
体育館の入り口を見ればバスケ部監督の中谷と丘咲が立っていた。
『ありがとう、ございます…』
彼女にとって“見事“や“素晴らしい“というたぐいの言葉はあまりいい気がしない。
「やっぱり鈍ったわね。
あと、動きが硬いわ。」
「そうかい?私にはそうは見えないが、」
「まぁ、これからシメるだけですから。」
少々危険な言葉を発した丘咲。
しかし、そんな言葉に動じない。
『いつからそこに?』
「中盤くらいよ。
曲がかかると周りが見えないのは変わらないようね。」
『はい。
というか麗夕さん、ステージってどういう事ですか!』
「しょうがないのよ。
それに結構満更でもなかったみたいじゃない。」
『うっ、』
「床買う費用はこの学校にはないし、場所もないのよ。」
『っ、そうですけど…』
「文句言わない。
大坪くんありがとう。
中谷先生も貴重な時間割いていただいてありがとうございます。
じゃあ、早速練習始めるわよ、夏桜。」
『はい、』
「何暗い顔してるのよ。
あなたはもう昔のあなたじゃないわ。」
『っ!』
「怖がってる隙なんてないわよ!」
『はいっ、』
(私が踊る前に彼と目が合った)
(そしたら彼は、)
(がんばれ…)
(と口を動かした様な気がした。)