ミドリンより!
□「あぁ!?轢くぞっ!」
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時はさかのぼり、入学2週間目の昼休み…
『失礼します。』
まだなんとなく雰囲気に慣れない職員室に控えめに声を掛けてみた。
職員室はあまり居心地がよくない。
高校ともなれば、生徒の数も増えて、それと同様に教員の数も増える訳である。
平均より低めの身長の彼女のことだ、高めの仕切りのある入口で少し背伸びをして位置を確認すると、足早に近付いた。
『中谷先生』
「ん?」
『提出のプリントです。』
「あぁ、ご苦労だったね、ありがとう。」
彼女の存在に気づくと、作業中だったペンを置き、プリントを受け取った。
バスケ部監督の中谷先生は、授業では、英文法を教えている。
『いえ、じゃあ私はこれで。』
「そうだ。
ちょっと待ってくれないか、龍皇寺くん。」
他になにかあっただろうか?と、ふと考え足を止め振り返った夏桜。
「いや、悪いんだがね…
これを宮地に渡してきてくれないか?」
『宮地さん、にですか?』
ペラリッ、と一枚渡されたプリント。
「あぁ、渡しそびれてしまってね…
頼まれてくれるかい?」
『私で大丈夫ですか…?
部外者ですよ、』
「大丈夫だ、心配はないさ。」
『分かりました。』
失礼しました、と軽く頭を下げて職員室を後にした。
職員室は渡り廊下を渡った、校舎の一階の一番奥にあり、保健室や校長室なども同様に一階にある。
教室は、一年生から一階、二階、三階、と学年ごとに階が上がっていく。
『そういえば、三年生の階に行くの初めてだ。』
半分くらい、ちょうど二年生の階に着いたところでふと、思った。
自分には、"先輩"という存在がいない。
だから、日が浅いにしても、三年の階へ上がることは初めてだった。
そして、不安も一つ浮かび上がった。
『宮地さん私のこと分かるかな…。』
いくら毎日同じ体育館で練習をしていたとしても、関わりがそんなにあるわけではない。
そんなことを思いながら、階段を上がっていれば、あっという間に三階に到達した。
『えっと、宮地さんって何組…
何組か聞くの忘れてた。』
三階にたどり着いて、一番知っておかなければならないクラスを聞き忘れた事に今更気が付いた夏桜。
なんて事だと、少し狼狽えていた。
もう一度戻ろうか…と考えているとプリントが目に入った。
『(クラス書いてあるかも…)』
プリントを見るのは少し気が引けたが、もう一度職員室に戻れば、中谷先生に迷惑がかかってしまう。仕方ない、と自分に言い聞かせてプリントをチラリと見た。
『(あ、5組だ。)』
なんとかクラスを確認することができた。
5組はこの階の一番奥だ。
もう少しでたどり着ける。
三年生から、チラチラと視線を浴びつつ5組にきた。
後ろの扉が開いていたので覗いたのだが、宮地の席はどうやら、廊下から最も遠い窓側であった。
さすがにこの距離から呼んぶのも、どうかと思っていると…
「あれ、どうかしたの?」
後ろから、優しい声が掛かったので振り向くと、大人しそうな印象な女子生徒が立っていた。
「一年生…かな?
うちのクラスになにか用事?」
『あ、宮地…さん、にちょっと…』
「宮地君?ちょっと待っててね。」
『すいません、』
どうやらこのクラスの生徒だったらしく、宮地を呼んでくれるみたいだ。
彼女を目で追っていくと、窓側の一番後ろの席で、クラスメイトと談笑しているであろう彼に近付くと、彼女に気づいた宮地が顔を上げた。何か話しながら、廊下にいる夏桜を指差した。
宮地が夏桜に気付くと、彼は少し驚いていたが、談笑の輪を抜けてこちらに近付いてきた。
「どうかしたか?」
『あ、このプリントを中谷先生から預かってきたので。』
そう言って、プリントを手渡せばそれに軽く目を通し終わると、少し雑に二つに折った。
「わざわざ昼休みにありがとな。」
『いえ、気にしないでください。』
「そういえば、まともに話しすんのは初めてかもな…」
『そう、ですね。』
「清志ー、その子彼女?」
「違ぇ。つか、重ぇよ迫、殴るぞ。」
いきなり会話に入ってきた、男子生徒。
「こいつは、部活同じとこでやってるオウジだ。」
『えっ、』
「え、王子?
女の子じゃん。」
「あっ!
いや、わりぃ。
高尾がいつも呼んでるからつい…」
ばつの悪そうな、焦ったような顔でポケットに手を突っ込んでいた。
『大丈夫ですよ。
皆そんな感じですから。』
「じゃ、俺もオウジって呼ぶかな。」
さっきから、宮地の肩に手をつき顎をおいてゆったり話してくるこの人、迫優大(さこゆうだい)。面倒見が良さそうだ。
『あの、』
「ん?」
『あ、えと…』
「どうした?」
『あの、私…、み、…せ、ょ…、ですか、』
「ん?」
『宮地さんと迫さんの事、先輩って、呼んで、いいですかっ…』
「「え、」」
あまりにも唐突な事で、驚いていれば、すかさず理由を話し始めた。
『あの、駄目ならいいんです!
私、先輩って呼べる人少なくて…』
「俺はかまわねえよ。
むしろ高尾とか緑間とか野郎に呼ばれてばっかだったから、なんか新鮮でいいし。
それに、これから色々世話になるだろうしな。」
「俺もいーぜ?
可愛い後輩が出来て嬉しいし。」
そういって、夏桜の頭に手を置いて2、3度頭に撫でた。
「つか、お前が先輩少ないって意外だな。
なんか、愛されてそうな感じだけど…」
「愛されるって、清志(笑)」
「あぁ!?轢くぞっ!
つか、そうだろ!見てわかんねぇのかよ!」
「いや、まぁ確か分かるけど。ストレートだなお前。
つか、後輩の前で物騒だぞぉ?」
宮地はどうやら、無自覚で言ったらしく、それを冷やかした迫に八つ当たりをする。
『愛されてるなんて、そんな…
全然ないですよ。だって、』
キーンコーン カーンコーン
何か言いかけていた彼女だったが、予鈴によって遮られてしまった。
『すいません。
じゃあ、私はこれで失礼します。』
「お、あぁまたな」
『はい。
…宮地先輩、迫先輩、』
「んー、どしたぁオウジちゃん?」
「早く帰んねーと、授業遅れんぞ。」
そんな些細な言葉でも、先輩を持てた事が嬉しかった夏桜は思わず笑みをこぼしてしまった。
『ありがとうございます!』
「…おぅおぅ、早く行け!
デコピンすっぞ!」
「清志、女の子には優しいんだなー。気を付けてねーオウジちゃん。」
そんな彼女を見た二人も、釣られて笑っていた。
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