夏のある日に、この恋を。
□2話>>修学旅行、前日>>1
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――小さな発見だと思う。
自分の気持ちを正直に表すとすると、やっぱりスキ≠ネんだ。
でもそれが恋愛≠ネのか、はたまた友愛≠ネのかはわからない。
スキ≠チて気持ちだけが、心に残る。
そんな複雑な――――
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>>修学旅行、前日の話>>1
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――三年生になってすぐ、この学校へやってきた。
なんだかんだで転校当時は騒がれたのを覚えている。
美少女がやってきた、と。
すべからく何人かに愛の告白をされることになり、嫌な思いをしたのは記憶に新しい。
同じ人に何度も告白されたこともあった。
もちろん全部お断りだ。
だから言ってやったんだ。
――だってスキじゃないから。
と。
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「あ、おはよう」
「う、うん。おはよ」
――昨日のことを引きずっているからだろうか。彼女の笑顔を見たとき、ドキッとしてしまった。
ぎこちない挨拶は、きっとその証拠。
とうの彼女――梨子は、変わらず笑顔だから不思議だ。
厄介な笑顔、とだけ心の中でぼやく。こういう時美人はずるい。
「――――」
――言葉が出ない……。
いつもならもっと会話が弾む。朝の教室とはそういうもののはずだ。
しかし残念ながら、喉が張り付いて動こうとしない。
素晴らしきかな、人体。精神的なことが、身体的な問題に繋がってしまうかも。
一秒に満たない間。
無理してペースを作ることはないのに、どこか焦りを覚える。
何か言わなきゃ、何か言わなきゃ……と。
そして一秒を過ぎたころ、梨子の方から話し始めた。
「明日は修学旅行だね」
「……あ、そ、そうだね」
ジャブ。いやべつに対決をするわけじゃないけど。
「沖縄だよ沖縄」
「うん……」
彼女の楽しそうな顔が、少し曇る。
「ねぇ、どうしたの?」
「え?」
「顔色、悪いけど」
「あ、ぁあ、えっとねっ」
あなたが昨日あんなこと言うから意識しちゃって頭ん中ぐるぐるで調子が悪いのです。……とは言えないので。
「ちょ、ちょっと調子がよくない……かな」
「夏美、大丈夫? 保健室いく?」
「大丈夫、平気平気」
全然平気じゃないんだけどね……。
はははは、と作り笑いでごまかして、机に伏せる。
瞬間、顔が熱くなるのがわかった。
想像してしまったのだ。
――梨子とキスするのを。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!
あたしはなんて破廉恥な女なんだ!
いやまあ、女の子同士で抱き合ったり、手を繋いだり、そういうのはノリでできる。実際、身長が小さいので愛玩用として抱きつかれることも、少なくはない。
しかし! キスは誰でも躊躇うだろう!
頬や額、手などならまだしも……その……唇を重ね合わせるのは、抵抗がないわけではない。
あたしのハジメテは愛する人≠フためにとっておくと、小さいときに決めたじゃないか。多分。
限界だ。恥ずかしすぎる。
ガバッと起き上がり、梨子と目が合いそれを逸らしてから、
「梨子、やっぱりあたし保健室いってくる。ホームルームの連絡、あとでメールして」
保健室の前原先生はカウンセリングができたはず。このまま修学旅行まで引きずる訳にはいかないのだ。
「え、じゃあ私も行くよ?」
「梨子まで行ったら、誰が明日の連絡伝えんの。大丈夫だから」
「でも」
きーんこーんかーんこーん。
なんとも気の抜けるチャイムが鳴る。すぐに担任も来るだろう。
「……行ってくるね」
「私も、」
「梨子!」
思ったより大きい声が出た。
いそいそと準備を始めていたクラスメイトの視線をかっさらうにはちょうど良い感じの。
彼女のことを意識しすぎるがゆえに、だろう。そんなこと分かっているんだ。
「……夏美?」
「保健室行ってくる」
「……………………」
注目を浴びつつ、逃げるように教室を出る。
ひとりの視線が、やけに痛く感じた。
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