掌編小説置き場。
□ファースト、キス。
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「美咲、帰ろう」
カバンにプリントを詰めていると、後ろから声が掛かった。
私――はかま美咲――は、声の主に振り返る。
ショートヘアがよく似合うボーイッシュガール、天海優奈。いつも一緒に帰ってる親友だ。
明るい性格で、サバサバしている。高い身長にすらっとした体躯、おまけに巨乳ときた。この完璧美人はほんとに日本人なんだろうか。
聞けば男子からの告白が途絶えないんだとか。何者だよ本当に。
「あー……ごめん。私、行きたいトコあるの」
クリスマスに一人でいたくないのは山々だが、実は本屋によりたい。
もう来てくれないサンタの代わりに、自分へプレゼントを買いに行くつもりなのだ。
「じゃ、あたしも行こうか?」
「いいっていいって。駅と反対だし」
学生御用達の宮脇書店は、残念ながら駅と学校の間にはない。
駅の周りと言えば居酒屋ばかり。
ここの生徒が、帰りに買い物したがらないのもそれが一番の理由だろう。
「そう? なら平気か。またね、良いお年を」
「ありがと。そっちもね。じゃあまた」
軽い挨拶を交わして、教室を出て行く優奈。
私は、ちょっと間を置いてから、彼女を追うように教室をあとにした。