掌編小説置き場。
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「ねえ、藤原さん」
「なあに、千秋ちゃん。冬華でいいよ」
最初に話し始めたのはこの千秋と冬華。
「じゃあ、あたしも千秋でいいよ。なんかあんまりクラスとかで絡めなかったから、来るって聞いたとき、すげーびっくりした」
「あはは、よく言われる」
「冬華元気っ娘だもんね、参加したくなるよ」
と、鈴は口を挟んでみたり。
「そーなんだよねー。千秋と仲良くなれちゃうかも?」
「おう、かもな!」
早速意気投合。相性いいね、この二人は。
「でも、冬華は中学のときは物静かだったよね」
「ちょ、美咲! それは言わないでって!」
「あの時はね『封印された右手が疼く……』とか言ってよく遊ん――」
「わーわーわーわーっ!」
「……二人は中学同じなの?」
鈴は気になって質問してみる。
「そうだよ。だから、今日も私が誘ったの」
「へー、仲良いんだなー。あたしは右手の話、気になるけど」
「あ、やっぱり?」
「千秋!」
「鈴は二人が同中だったのが意外だなー。中二病はおいといて」
「委員長までっ!」
笑いがおこる。なんだかおかしくってたまらない。
「でもね。私は冬華を心配してたんだよ」
しみじみと美咲。
「どーしてさ。中二病だったからっ?」
「そうカッカなさんな、冬華。鈴も委員長として心配してたけどね」
「だから、なんで?」
うーん……と、一瞬の間。ここで気を遣う必要もないと思うけど、美咲にアイコンタクトを送る。
「そりゃ、ぼっちだからだろ」
「「――あ」」
千秋ぃぃぃぃい! オブラートに包んで!
「あちゃー……」
「言っちゃった……」
「あれ? 美咲? 鈴? あたし悪いことした?」
黙って目を逸らしておいた。
「千秋ぃぃ! そんなハッキリ言わなくてもーっ!」
「あ、すまん」
軽っ!
「ま、まぁ、冬華も彼氏出来たんだし、ね? 今はぼっちじゃないから、ね?」
ナイスフォロー美咲!
「へ、へっ!? 違っ、ぅよ美咲! 紡くんはなんというか、あれだよっ! ともだちだよっ!」
「あれ? 違うの? 鈴てっきりもう付き合ってるのかと思ってた」
「確かに。毎日イチャついてたし」
「そんなんじゃないよ二人とも!」
ううぅ……、とうずくまる冬華。さすがに可哀想になってきたかも。
「紡くんはともだちだもん……、うぅ……」
「冬華、もしかして、雪原君に告白したの?」
あぁまた千秋は! オブラートに包んでってば!
「………………うん。遠まわしに」
「あれ? じゃあなんで友達のままむぐっ」
「千秋ちょっと静かにっ!」
一応千秋を抑えておこう、うん。
「……そっか。辛かったね、冬華」
「美咲みたいにこいびと居る人にはわからないよ……」
「…………へ?」
驚いて千秋を抑える手が緩む。
美咲に、恋人が? まさか赤坂くんが? いやまさか。そんなはずは――、しかし、確証はない。
変な汗がでる。手がべっとりと湿りついて、喉がカラカラになる。
「も、もう、冬華! 優奈のことは秘密だって言ったでしょっ!?」
「「………………優奈?」」
「あ、」
空気が、止まった。
きっかり十秒たって、
「えぇぇぇーーっ!? 美咲って優奈と付き合ってたの!?」
って千秋が叫ぶ。鈴は呆然とするしかできなかった。
「あ、あの、これは深い事情があって……」
普段大人しい美咲が焦ってると、なんか新鮮味があるな、なんて余計なことを考えてしまうくらい現実をみれてない。
「美咲、鈴はそのテの趣味ないから、ちょっと……」
「鈴っ! ちょっと千秋も怯えないでよぉ!」
「だって……、あたしは……」
「いっつも夏美さんと仲良くしてるじゃないっ!」
「ななな、夏美は関係ない、だろ?」
「あーもう、喧嘩やめてね。主催者が怒っちゃうよ」
鈴の注意に、冬華がニヤリと笑っている。仕返しに成功してご満悦、ってとこかな。別に怒らないけどね?
「ごめんなさい……」素直に美咲が。
「……すまん」と言い辛そうに千秋が。てか千秋顔赤いぞ。こいつももしかして夏美と何かあるんじゃ……。
「んで、いいんちょさんは赤坂くんと上手くいってるの?」
「冬華、なに言ってんの。鈴は赤坂くんとは無関係だよ」
こっちに矛先が向いてしまった。どうしよう、ごまかさなくちゃ。鈴はこの感情はしまっておくって、決めたんだから。
「嘘はよくないよ。授業中、チラチラずっとみてたの、冬華名探偵は知ってるよ?」
「い、ぅ……」
……ばれてる。なんで、どうして?
「そ、そんなこと、してたかなー?」
必死の抵抗を試みる。今まで冬華との関わりが少なかったせいか、ここまで鋭いとは思わなかった。
「そういえば鈴って、一年生のとき赤坂くんと付き合ってなかった?」
「うぁ……」
美咲は赤坂くんと同じ部活だった。知ってて当然だ。そして、彼女には赤坂くんとのゴタゴタがあったりする。美咲に助けは求められそうになくなった。
「…………」
千秋は何か言いたげに真っ赤な顔でチラチラみてきてる。
――――はぁ。わかったよ。
「付き合ってたよ、赤坂くんと。そりゃもうラブラブだったよ」
「……じゃあなんで別れたんだよ」
「……千秋、あなたオブラートって言葉知ってる? てか復活早すぎ」
でも、これは言えないな……。そりゃもう酷い話だから。
「すまん。なーんか空気読めないんだよな、あたし」
あ〜……、って感じの空気が満ちる。なんか千秋に関してはみんな諦めつつあるんだと思う。
「でも、私は鈴の恋愛話気になるなー。参考にしたいしね」
ニシシと笑う冬華。悔しいかな、画になるじゃないの。しかし考えてることが、なんとかして鈴の話を引っ張り出そうとしてる、っていうのがなんとなく分かる。まぁ勘でしかないんだけど。
けどね。これは鈴ひとりの――まだ笑い物に出来ない過去の――話だから。そう簡単に言うわけにはいかないんだよねぇ。
ちら、と美咲を見る。まだ頬を染めて俯いていた。
「冬華、別れ話なんて参考にならないでしょ。あんたは雪原くんと同じ大学行くんだし、なんとでもなるって」
「そうかなー。でも、誰かのアドバイスがあった方が――」
「そんなに聞きたいか」
遮ってやった。
「うん」と即答する冬華。一緒に千秋も頷いたのがわかった。
鈴はもう一度美咲をみて、目があって、たっぷり十秒見つめ合って、彼女が首を縦に振った。目は逸らされた。
「わかったよ、まったく。――――覚悟して聞いてよね」
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