Short Story in SD

□月光
1ページ/3ページ





水に囲まれた江東の城。満月が波紋一つ無い水に映し出され、まさに鏡のようだった。

太陽が隠れ闇に覆われたこの三璃紗を照らす月を、周瑜は一人見上げていた
。彼は今、孫策のもとを訪れる途中であった。
新天地としてこの江東に根を張り、やっと落ち着いてきた今日この頃。
長年孫家に使えてきた四騎衆の忙しさや苦労を労う孫策の姿を周瑜は目にしていたが、孫策自身はどうだろうか。

四騎衆以上に、心身ともに疲れている筈なのだ。
体制を整える為にあらゆる手を尽くしつつ、紀霊の来襲といい、三璃紗に訪れるであろう激闘の時代に向けての軍備増強などなど。
挙げてはきりがない。

それらが、肉親を失って間もない親友の肩に残酷にのしかかったのだ。

形のいい石を見栄えよく配置しただけの孫堅の墓。
江東を治めるようになってから一度しか、墓を作ったその時にしか、孫策は父に会っていなかった。

力強かった江東の虎の腕が、まるで糸が切れた操り人形のように、燃え滓となった光の都に降り注ぐ雨の中で、ばしゃりと落ちたその時を、周瑜は少し離れた所で見ていた。

孫策は尚香のように泣き叫びもしなかった。孫権のように涙を流す事も、空に向かって吼える事もしなかった。
ただただ、雨のしずくに身体を打たれながら、僅かに顔を俯かせていた。



家族の死に悲嘆に暮れる事なく、孫策は進み始めた。
まるで、父の死など大した事ではないかのようで、勿論そんな筈はないのに、すぐに董卓を追いかけた。

それが必要だったのは分かる。
周瑜とて軍師だ。戦場に犠牲はつきもので、それに一々心を痛め、歩みを止めていては、足下を掬われる。
孫策のように、兵を率いる身となった者は尚更、毅然として堂々と、何事にも動じず進まなければならない。

それは悲しい事なのだ。



江東の小覇王と言われる孫策が、どんな思いでこの江東を治めているのか、みんな分かっている。だから、言わない。
泣いていいとか、休んでいいとか、そんな言葉を孫策は望んでいる訳じゃない。

その言葉が孫策の覚悟や思いを踏みにじるような気がして。みんな何も言えなくなる。



それでも、付き合いの長い周瑜には分かっていた。明らかに無理をしていると。
自分を追い詰めてしまっている孫策の姿を、悲痛な目で見てしまうのだ。

自分は大丈夫だと言う孫策に、そんな目しか向けられない自分だから、自分の眼差しとは裏腹に、問い詰めるイ事もせずそうかと返す事しかできない自分。
日に日に内に溜まっていく感情が溢れ出しそうだから、周瑜は孫策のもとを訪れる。



閉じこもってばかりでは、月の光は届かない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ