中編格納庫

□IZAYOI-2-
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その日は、ただ疲れていたんだ。

ナツと別れて家に入ると既に重い眠気に襲われていた。着替えることなく自分のベッドにダイブして程なく眠りについた




不意に浮上する感覚とともに声が聞こえてきた。

誰だ?

微かに聞こえてくる声を認識しようと試みるが自分のカラダを動かすことができない。

『コイツだ。』

ひどく下卑た声が聞こえる

『あの薬は一体なんなんだ?ソル』

『ククク・・・詳しくは喋れませんが・・・マスターの意向に・・・』

ソルと呼ばれただろう奴の声が小さくてよく聞き取れなかった

『まぁ、あれのおかげで俺も大分楽しんだが、ココに連れて来たってことは・・・』

『最終段階です・・・これで・・・収入・・・』

だんだんと声も遠くなってきた。

数日前の感覚が甦ってくる。ただ闇が迫り、何も考えられなくなる感覚。仄かに漂うあの匂いをのせて急激に堕ちていく。

ただ漠然とした闇の中に囚われる。自分がどこにいるのかも分からない。自分という個体の存在さえも。





マグノリアにある魔導士ギルド『フェアリーテイル』では同じチームであるエルザ、ルーシィ、ハッピーが突如行方不明となった氷の造形魔導士グレイの行方を思案していた。

「一体、何があったというのだ・・。」

意志の強そうな瞳に長めの緋色の髪をサラサラと揺らしながら喋るのはエルザ。

「全然手がかりも無いし・・・」

青い猫を膝の上に乗せて手持無沙汰に頭を撫でながら思案しているのはルーシィ

「ナツならきっと見つけ出すよっ」

ルーシーの膝の上にいる青い猫ことハッピーはナツの友だち兼相棒である

「ハッピー、ナツはどこにいるの?」

「ずっとグレイの家だよ」

「ずっと?」

「あい」

ルーシィは膝の上にいるハッピーを凝視した。何故なら行方知れずになってから既に1週間は経つのである。

正確にはナツがグレイの最後の姿を見てから1週間。もっとも最後の姿を見た次の日にナツはグレイの家に行って既に居なかったのである。

それからまったく姿を現すことなく現在に至っている。何の連絡もなしに忽然と姿を消すなどグレイらしくないということでこうして皆で行方を考えていたのである。

ナツは帰ってくるかもということでグレイの家にずっといるのだ。

「ナツは、匂いが気になるって言ってたんだ」

「匂いか、それならばナツに任すしか無いな。ルーシィ、ハッピー、私達は違う視点から考えてみよう」

紅茶の良い香りが漂ってきて振り返るとミラが人数分のティーカップをトレイに乗せてテーブルまで来た。

「はい、これでも飲んで。気持ちが落ち着くわよ」

そういいながらティーカップを置いていく。

紅茶からは微かな花の匂いと甘いバニラの香りがする。

ルーシィはカップを手にとって匂いを肺いっぱいに吸い込んで「良い匂い〜」と至福の笑みを浮かべていた

「ふむ、ここにケーキもあればよかったな」

エルザは悔しそうに呟くが、紅茶を一口飲むとやはり満足する笑みを浮かべた

ハッピーに至ってはおいら猫舌だから飲めないよ〜と言って匂いだけ嗅いでいた。

「それにしても・・・気になるな。グレイがそこいらの輩にそうそう負けるはずもない。何かに巻き込まれという線しか考えられないな」

カップをテーブルに置くとエルザは考え込んだ





闇の中から浮上してくる感覚とともに目を覚ました

何故、俺はこんなところにいるんだろう?

薄暗い部屋の中にはベッドがあるだけだ

ベッドの柵から伸びた鎖が自分の両手に嵌められている

外を見たくても天井近くに小さな格子窓があるだけだ

ココはどこなんだろう

どうして?考えても答えが出てこない

部屋に充満する甘い匂い。重い疼きが思考力を低下させている

少し、眠ろう・・・夢かもしれないから・・・

薄く開いていた瞼とともに思考もまた闇の中へ落ちていく

『ナツ・・・。』
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