パラレル小説
□籠の外は籠だった
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たくさんの影が迫り来る。
この訓練のときはいつもそうだった。
束になれば勝てるとでも思っているのだろうか。その浅はかさに思わず笑いがこぼれる。
「今日はどうされたいの?君たちは」
「あんたを殺すッ!」
いくつもの声が重なりあうものの、全員同じことを口にしている。
赤司はそれ以外に言うことがないのかと内心呆れながら静かに構えた。
自分はどうされたいのかと聞いたのに。そっちが何をしたくても、こっちには関係ない。どうせできはしないのだから。
右、左、上。
全方位から襲い掛かってくる相手を、一人ひとり突き崩していく。
右斜め後ろから来た影にひじ鉄を入れ、その勢いのまま回し蹴りをして数人蹴散らす。
上に気配を感じれば、重心を落とし一回転してよけ着地する瞬間を狙い、首輪を壊れるほど強く叩き、意識が飛ぶ寸前の相手の後ろ襟をつかみ遠心力で投げ飛ばす。
すると軽く悲鳴が上がり、足が震えて逃げ遅れた数人がその下敷きとなった。
いつもこうだ。
はじめは我こそはと息巻くものの、だんだん形成が不利になってくると、恐れおののいて攻撃の仕方がやけになってくる。
また一人襲いかかる。
拳を受け止め、そのままひねりを加え投げ飛ばす。もちろん峰打ちも忘れない。
相手の攻撃が単発で短絡的になっていく。
こうなるともう、面白くない。
「つまらないな。もっとマシなのはいないわけ?」
うんざりして挑発をする。とても子供騙しみたいなやつをだ。
こう言われて頭に血を昇らせて乗ってくるのはまだマシだ。数秒で方が付いてしまうけれど、固まって動けなくなってヤツよりよっぽどいい。
けれど本当につまらない。訓練の一つ一つはすごく大切なものだが、とても有意義だとは思えない。
そうこうしているうちに、一時間が過ぎた。
親に売られて早十五年。
生まれた場所がここだと言っても過言ではない。
人が嫌う血のにおいは、今ではないと落ち着かなくなっている。
慣れとは恐ろしいもので、死に対しても、暴力についても、もう何も感じなくなっていた。
そうして過ごすうち、次第に周りとの差が開き、ついにはキセキの世代だなんておかしなあだ名まで付いた。こう呼ばれている者は他にもいるらしい。
暮らしているところが別棟で、会ったことは一度もないが。
考えれば考えるほどおかしな話である。会ったことさえない他人と同じあだ名をつけられ、それに対して妙な繋がりのようなものを抱くだなんてそんなに自分は寂しがり屋だっただろうか。
いや、多分そうではない。
自分と同じあだ名、つまり力が拮抗しあうだろうと思われている相手。手あわせをしてみたいのだ。
上はそれを望んでいないが、やはり一度でもいいからやってみたい。
満足をしたい。
夕食を終え、シャワーを浴びる。
女である自分は男の声がわりと同じように、胸が膨らみ始めていた。
他人のシャワーを覗いたことがないため、比べようがないが、少し大きいのではないかと思う。なんだか邪魔だ。
服はすごくゆとりがあるため、上から見たのではよくわからないし、どうでもいいことでもあった。ただこれ以上大きくなると大変だなと思うくらいで。
汗をすべて流し終えると、着替えを着て髪を乾かし、ベッドのそばに置いておいた本を手にとる。ちょうど半分まで読み終わったところだ。
武器の名称・使い方
読み進めていくうちに、本物を手にとってみたいと思ったが、ここは肉弾戦を目的としているため、そう言う機会はやってきそうにないと落胆した。
20ページほど読み進めてから、本を閉じ、眠りにつく。
明日も血にまみれる訓練があるからだ。
それに備えて、目を閉じた。