パラレル小説
□籠の外は籠だった2
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初めて見る街というものは、何もかもが輝いていて、活気があって、望めば手に入らないものなんてないかのように色々なもので溢れていると言うのに、どうしてか俺は妙な孤独感を感じてしまった。
罪のない人間がいないことなど知っているけれど
自分の罪の重さを、量り間違えたりなどするものか。
海常はとても大きな物流の会社だった。
貿易もやっているため、かなり収益が高い。そして、人々からの信頼も厚い。
だからこそ、それを妬む奴等もいる。
それらを排除するために、俺は買われた。
結局あそこと何一つ変わらない。
籠の外はどんなに空が高かろうと、地の果てが見えなかろうと、結局は籠なのだ。
それを改めて思い知らされた。
着いた屋敷は、俺にとってはとても新鮮な刺激だった。
バロック式の噴水や彫刻。絢爛豪華な調度品。
召使いは両手の指じゃ足りない。
全てがとても美しく、全てがひどく滑稽に歪んで見えた。
ここが、今日から俺のすべてになる場所だ。
だから、あそこにいたときとはまた違う、新たな覚悟を決めなければ―――――
「罪のない人間はいない、か」
あの日は珍しく緑間っちが独り言を呟いた。
なんの脈絡もない一言。
当然俺は気になったわけで。
「どうしたんすか急に〜?あ、もしかしてそういう本の読みす・・・・・」
「違うのだよっ!勝手な想像をするな!」
全部言い終わる前に鉄拳が頭を直撃する。
ひどいッス〜といえば、彼は機嫌悪そうにとっとと先に行ってしまった。
後から聞いた話、緑間っちは物心がはっきり付いたときにここに連れてこられたらしい。
しかも物事の善し悪しが理解できる年齢のときに。
だけどその感覚は到底俺が理解できるもではなかった。いや、ここにいるほぼ全ての人間が理解できないだろう。
それほど彼は異質であり、外の世界に一番近くて遠かった。
“人を殺してはいけない”
そんな考えを当たり前としている緑間っち。
そんな彼がその手を血で汚す度、キセキの世代などと呼ばれ、畏怖や尊敬の念を受ける度、どこか理解しがたかった彼の苦悩とやらが少しずつ自分に馴染んでいった。
けれど世界はそれを許さず、天才の名をほしいままに、それに翻弄される彼はある意味一番の被害者なのだろうと思った。
それでも彼が自殺をはからなかったのは、自分たちのおかげかもしれないなんて、恩着せがましく思ったりもする。
今更ながら、もう少し緑間っちのお説教を聞いておけばよかったなんて、思ってみた。
それはけして量り間違えてはいけないもの。
血を血で洗うのをやめられないのであれば、受け入れて、懺悔するしかない。
そんな考えに影響された自分も、知らなければ良かったと思いながらも感謝する。
まだ自分は、人でいられる。
ただの殺人兵器にだけは、なり下がるものか。
あそこにいるほとんどは殺人兵器だ。
そしてそれが正当化されている。
だからこそ、自分は彼に出会えて、幸せな、とても幸運な人間なのだ。
彼の苦悩を理解できるとは言わない。
ただ、友人という関係はそれなりに築けていたのではないだろうか。
物語がどんなふうに歪んでいくのか俺達はまだ知らない