小説


□第一印象
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 切り裂くような寒さの中、何よりも自分を切り裂いたのは、緑の変人のラッキーアイテムだった。




 あれから数カ月。
 時折脳裏をちらつく赤色に、火神は頭を悩ませていた。

 黒子の元キャプテンであり、勝利しか知らず、常に玉座に座っている男、赤司についてである。
 一番礼儀正しそうで、一番危ないキセキの世代。
 小柄だが、なぜかいつも見下されているような感覚を味わわされる。
 ハサミ事件については一発ぐらいなぐらなければ気が済まない相手のはずなのに、どうにもそういう気が起きない。
 それどころか気持ちの悪いことに、気になるのである。無性に。

 いつからこんなに気になりだしたのだろうと、考えてみることにした。というか、ない頭でそうなったきっかけを探そうとした。
 そうなると、やはり身長だろうか。黄瀬をのぞけば赤司以外のキセキの世代は、ムカツクことに全員自分よりも背が高い。
 だからこそ、あんなに小柄な赤司が無法地帯の代名詞ともいえる彼らを三年間引っ張ってこれたのが不思議なのだろうか。
 わからない。
 黒子によくデリカシーがないと言われるが、これは関係ないだろう。

 と、
「なあ黒子、今日は異様になんか甘ったるい匂いがしねえ?」
 後ろの相棒に問う。相棒は読んでいる文庫本から顔も上げずに、
「そりゃしますよ。バレンタインですから」
 バレンタイン。
 アメリカにいた頃、よく周りの奴らが女子にバラではない赤い花を渡していたのを思い出す。そして兄貴分の氷室から、
「バレンタインって、聖職者が殺された日なんだよ」
 と、ものすごい笑顔で言われたことを思い出し、少しげんなりした。
 そうか。日本では女子が男子にチョコをやるんだっけ。
 モデルの黄瀬あたりが結構もらっていそうだ。両手にチョコの入った袋を抱え、「もう持ちきれないッス!」と困ったように笑う黄瀬を思い浮かべ、少しイラっとした。
「バレンタインねえ・・・」
 気を紛らわすようにその単語を口に出しながらふと思った。
「なあ、キセキの世代って毎年どのくらいチョコもらってたんだ?有名だから結構もてたりもしてたんだろ?」
 さすがにこの質問には黒子も本を閉じ、少し考えこむように首をかしげた。その顔に、もらえないひがみですか?という感情が含まれていたように感じたのは、気のせいということにしておこう。
「まあそうですね。黄瀬君は・・・」
「あ、黄瀬はいい。どうせ山のようにもらってたんだろ」
「はい。聞くだけ野暮です」
 なら言うなよ、と言いたいのを堪え、緑間とかは?と聞くと、
「緑間君はラッキーアイテムを見て去っていく女子がほとんどでした。伊月先輩のネタ帳と同じです。青峰君は下駄箱や机に入れられるタイプで、気付かずに靴を入れたり教科書を詰めたりしてよく桃井さんに怒られてました。紫原君はまいう棒のチョコレートがけを喜んで食べてました。それが白子味だと知ったときは彼の味覚を疑いましたが・・・・」
 そこまで言って黒子が顔を曇らせる。推測でしかないが、おそらく黒子は食べたのだろう。まいう棒白子味チョコレートがけを。いや、食べさせられたのか。40センチもの体格差ではまともな抵抗はできなかったにいがいない。
 火神は心の中で合掌をせずにはいられなかった。
「赤司は?」
「赤司君ですか?」
「おう、あいつ、もてたのか・・・・?」
 ちょっと顔がひきつっている火神を見て黒子は、ハサミ事件が尾を引いているんだな、とちょっと哀れに思った。
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