夢小説
□壱章
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それから数日が経つ。
私は、歩ける程に回復した。
しかし、一度も襖より外には出なかった。
スゥー…
今日も襖が開いて、近藤が入ってくる。
必ずと言っていい程、私に何かを与えたがるらしい。
今日は、団子とお茶だ。
「お茶にしないか?」
「…頂きます。」
「外には出ないのか?」
「………。」
実際、知らない土地で何をしていいのか、わからない。
ここ数日、近藤の問いに対して「要る」「要らない」の返事と、答えられないことは黙ってきた。
流石に、ここまで世話をしてもらっている相手に対して、申し訳なくなってくる。
だから、今日は少し自分から頑張ってみようと思った。
私は初めて、自分の言葉を紡いだ。
「私は、名前以外に持っているものはありません。」
「………??!」
「住んでいた場所も、家族すらも、思い出せません。」
「…そうだったんだな。」
全てを包むような笑みで、近藤は言った。
「今日から此処が住む所で、俺が八雲の家族だ。
思い出がないなら、今から作っていけばいい。」
以来、この日から少しずつ、会話が増えていった。
この人がいる限り、私は何を 持っていなくても、私は愛されている気がした。
この人についていこう、強く、そう願った。