夢小説
□参章
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「以上が報告になります。」
私は池田屋事件の残党狩りと、新たに浮かび上がった不逞な輩共の始末の報告を済ませた。
禁門の変やら何かで忙しかった土方と、あちこち仕事に出歩いていた私と、やっとこうして時間が取ることができた。
「すまねえな、こんな汚ねえ仕事ばっかり押しつけて。」
「仕方ないじゃないですか、こういう役職なんですから。」
土方は思いっきり眉間に皺を寄せて、申し訳なさそうに切り出した。
「しばらく休んでろ、とは言ってやりてえんだが…。」
「……仕事ですか?」
「ああ。
………。」
用件を言うのを渋らせる土方。
きっと。
「私にしか頼めない仕事なんですよね?」
「…おまえに、情報を聞き出して欲しい奴がいる。」
観察方の山崎の情報によると、薩摩、長州、土佐の浪士を中心に諸藩を脱藩した同士を集めて、何やら善からぬことを企てている。
どうやら幹部の一人が最近、島原に入り浸っている、とのこと。
有名な遊女とはすでに、飲み明かしているらしい。
近々、新たな遊女を求めて、島原に来なくなるかもしれない。
何人か島原に情報をくれる者がいるが、他の場所となると伝が無く、情報が途絶えてしまう。
「そこで、私ってことですか。」
「そういうことになる。」
「……わかりました。
私が引き受けましょう。」
「それはいいんだが、おまえ一人に、は…。」
どうも、その男は、とんだ狸野郎らしい。
酒好きならまだしも、相当な女好きで、女癖がとんでもなく悪い。
八雲一人に任せるのは危険だ。
その上、相手は用心して、一度飲んだ女とは二度と飲まない。
つまり、機会は一度きり。
下手に八雲の他に、別の遊女を用心のために付けたとして、事情を知らない者と席を同じにすれば、失敗する可能性だってある。
その時。
「土方さん、八雲さん、千鶴です。
お茶をお持ちしました。」
襖を開けて、千鶴がやって来た。
千鶴が入ってきたことはあまり気にせず、土方と会話を続ける。
「私一人じゃ、潜入させるのは不安なんですか…?」
「そうだ。」
「そんなに頼りないですか、私って…」
「そういう訳じゃない。
が、これは別問題だ。」
……潜入??
お茶を渡しながら、千鶴は心の中で思った。
「…あ。
千鶴ちゃん、ありがとう。」
私にお茶を出してくれた千鶴へお礼。
「……八雲さん。
潜入って…?
危険なお仕事なんですか??」
「私は大丈夫って言っているんだけど、土方さんが私一人だと心配だ、ってさ。」
「何処に行かれるつもりなんですか?」
「島原。」
島原と言えば、花街で有名なところ。
そんなところに、何の用があるというのだ。
「どうしてもって言うなら、土方さんが女装して守ってください。
それなら、文句ないでしょう。」
八雲は、自分の不甲斐なさが原因で信用されていないのだと思って、少しばかり投げやりに言った。
「……??
…女装……
島原に、張り込みじゃなくて…潜入……。
…えッ!!?」
千鶴の考えていたことは、どうやら違うらしい。
「うん、潜入。
私が遊女の格好して、お酌するんだ。」
八雲は、男ではないのか!?
整った顔立ちは、あの妖艶な笑みは、女のそれと変わらない程美しいと思う。
しかし、千鶴の知っている八雲は男なのだ。
「知らなかったのか?
八雲は女だぞ。」
土方の言う真実に、言葉を失う。
「八雲さんが…女……」
「あれ、言ってなかったっけ。」