夢小説

□伍章
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-慶応4年1月-



 王政復古の大号令が下された。

 王政が復古する。

 それは朝廷が政治を行う、武士の時代が始まる前の姿に還るということ。

 幕府が、将軍職が廃止され…京都守護職、京都所司代までなくなってしまう。

 新選組の信じてきたものが、大きく音を立てて崩れ始めようとしていた。



 新選組は伏見奉行所の守護につくことになった。

 旧幕府軍の会議に出席して奉行所に戻る途中の近藤が、何者かに狙撃された。

 重傷の近藤と、体調の優れない沖田は、松本良順先生のいる大坂へ移された。

 八雲達は薩摩藩の動向を監視する為、京に残った。



 薩摩藩との小競り合いが続く中、新年を迎えた。

 外へ出ていた幹部達が、丁度奉行所へ戻った時。



 ドォォン!!



 建物の外から、轟音が聞こえた。

「ああ。

 ……とうとう、始まりやがったか。」

 一発の銃声は後に【鳥羽伏見の戦い】と呼ばれる戦の始まりだった。



 永倉は、どっちが発砲したか見に行く、と言い出した。

「副長が戻ってくる前に、勝手な行動は起こさぬ方がいい。」

 斎藤が制止した。



 奉行所に銃弾だけでなく、大砲まで撃ち込まれる。

 すると、鉢金と帷子で武装した土方が、息せき切って飛び込んでくる。

「近藤さんに、本隊の指揮を任された。

 ……これから、反撃するぞ!」



 井上は奉行所の守護、敵兵の切り込みに永倉、その援護に原田、斎藤は龍雲寺の大砲を止めるのを任された。

 八雲は、奉行所の裏手に回って、奉行所に向かってくる敵を撃つことを命じられる。

 裏手は道が悪く、多くの人数が行進するには難しい。

 おそらく、攻めてくるなら正面からだろうということと、あの道だと銃も使えないだろうということを踏まえて、あまり人員は割けない。

 八雲の腕なら数人の部下でそこを護りきることは容易い、と見込んだ。



 しかし、八雲は部下をつけることを願い下げた。

 当然、周囲からは反対された。



「私はちょっとやそっとじゃ、死んだりしない

 …というか、死ねないから大丈夫。

 そもそも、誰もあんな所から攻めてきたりしないでしょ。

 来たとしても、たかが知れてるし。

 それより、別の部隊にもっと人員を割いてください。」

 八雲の言っていることは、確かに正論だった。

 しかし、一人だけに行かせるのに、どうしても忍びなかった。

 そうも言ってられなかったので、土方は渋々了承した。



 刀を差して奉行所を出る時、千鶴に呼び止められた。

「八雲さん!!」

「千鶴ちゃん、どうした??」

「あ、あの…

 絶対に戻ってきてください!!」

 今にも泣き出しそうな顔だった。

「……大丈夫、安心して。

 絶対に生きて戻るから。

 約束するよ。

 だから、そんな顔しないで。」

 目頭に溜まって、こぼれ落ちそうな涙をぬぐう。

「…はい……。」

 じゃあ、行くね、八雲は静かに言い残して、奉行所を出た。
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