夢小説

□六章
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 戦線から離脱した3人は走る。

 走り続ける3人の目の前に、物陰から現れた人影。



「!!!!」

「雪村…綱道!!」

「父様!!」



 腕を組み仁王立ちの綱道。

 口は皮肉のように笑っていた。



「お前達、あの娘を捕らえなさい。

 傷を負わせずに、生け捕りにするのです!!」

 綱道の呼びかけに呼応して、おぞましい咆哮を上げて、羅刹が現れて迫ってくる。



「さ、斎藤さん、駄目です!

 太陽が出ている間に、羅刹の力を使っては…!」

 斎藤の髪が羅刹の持つ白髪へ変化する。

 斎藤は千鶴の声なんて耳に入っていない様子で。



 立ち塞がる羅刹達を片っ端から斬り捨てていく。

 抜き打ちで急所を仕留めるその刀さばきは、最早神業ですらあった。



「うっ…!」

 斎藤は顔を顰め、返り血の匂いを嗅がないよう、手の平で口元を覆う。

 彼の顔は、真っ青で脂汗がいくつも浮かんでいる。

「一君ッ!」

 八雲は、片膝をつき呼吸を荒げる斎藤と千鶴を背に、3人を取り囲む羅刹達と対峙する。

「八雲…ッ

 ここは2人だけでも逃げろ!」

 苦しそうに言う斎藤を横目に見て、ほんの少し目を伏せる。

「…ううん、逃げないよ。

 大丈夫。

 一君も千鶴ちゃんも、みんな、私の手で護ってみせる。」



 彼女の目は何かを決心する。

 八雲はおもむろに胸元に手を突っ込む。

 ごそごそ、と何かを取り出す。

 赤い液体【変若水】の入った小瓶。

 それを一気に煽る。



 斎藤と千鶴の制止の声が遠ざかる。

「くっ……!」

 痛みに顔を顰め、胸元で拳を握る。

 八雲の濃紺の髪が、汚れのない純白へと変わる。

 しかし、赤い瞳は金色に、そして額には2つの小さな角。

 明らかに羅刹の変化とは違った。



「…藤咲の家にあった書物で読んだ。

 純粋な鬼の血でない者が変若水を飲むと、鬼の力を手に入れるって。」

「お前…まさか!?」

 綱道が驚いて言った。



「千鶴ちゃん、一君を頼んだよ。

 私が道をつくるから。」

 八雲の言葉通り、千鶴は斎藤の肩を支える。

 右手に持った刀で羅刹を斬り倒しながら活路を開く。



 肉の裂ける音、鼻孔にまとわりつくむせ返るような血の臭い、全身に浴びる鮮血。

 その姿はまさに、鬼そのものだった。



3人はそのまま、江戸を目指し、力の限り走った。
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