夢小説

□終章
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 城内に囚われていた会津兵を解放し、城を後にした。

 藤堂は再び土方の元へ、原田と永倉は次の戦争へ、別々の道を歩み始めた。



 その後、東北の地で、蝦夷で、争いは続き、沢山の人の血が流された。

 明治2年5月15日、旧幕府軍の降伏で、ようやく戦争が終結した。



 戦いの後、永倉は江戸へ戻ったのだという。

 剣術が大好きな永倉のことだから、毎日修行に明け暮れてるのかもしれない。



 戦いの最中、永倉と袂を分かった原田は、日本を出て満州というところに向かったらしい。

 太平原を馬で駆けている原田の姿が、目に浮かぶ。



 江戸で闘病生活を送っていた沖田は、快癒することなく亡くなってしまった。



 仙台へ向かった土方は、蝦夷地に渡り、最後まで新政府軍に抵抗して、箱館で戦死したという報せを聞いた。



 藤堂も、土方の元へ戻って、その命を終えたらしい。

 ずっと土方の傍にいたということは、新選組の最後を見届けることが出来たってことだと思う。



 新政府軍と激戦を繰り広げ会津松平家は、領土を大幅に削られ、東北最北端にある斗南へと国替えになった。

 最北の地、斗南は草木すら育たない極寒の場所だ。

 人員も最小限でしか連れてはいけない。

 多く連れて行っても、食べるものすらないのだから。

 そんな会津藩から、斎藤に連絡があった。

 貧しい暮らしになるのだけれど、共に斗南へと居て欲しいと請われたのだ。

 斎藤は当然、斗南行きを了承した。

 もちろん八雲も、斎藤に着いて行くことを決めた。



 そして、月日は流れ…



 私達二人は斗南の人里離れた所に、家を構えていた。

 私は男装を辞め、斎藤の隣で女として生きている。



 冬の夕刻。



 そろそろ帰って来るであろう斎藤の帰りを、囲炉裏の前で待っていた。

 もう、ここに座ってどれだけの時が過ぎたかはわからない。

 彼に会えることを思うと、いくら時間が経っても、胸が高鳴った。



 そして、その時は突如としてやって来る。



「今、戻った。」

「一君!!

 おかえりなさい。」

 冬の外から帰ってきた彼は、温もりを求め囲炉裏の前に座る。

 質素ながら、それなりに広さのある家の真ん中の、敢えて八雲の隣へ。

 私は隣にいる彼の肩へ、体を委ねた。

 そんな八雲に気付き、斎藤は八雲の手の上に、自分の手を重ねる。

「ひゃっ…!

 冷たいよ、一君の手。」

 触れる冷え切った手。

「外、寒かったよね。

 何か暖かいものでも飲む?」

 斎藤は小さく首を振る。

「…いや。

 それよりも、もう少しこのままの方がよい。」

 八雲は彼の言葉に、わかった、と短く返し、身を寄せた。

 そんな斎藤は、八雲の肩に手を回す。



「ねえ、一君。」

 なんだ、と優しい声音が降ってくる。

「私ね…一君が好き。」

「なっ…!!」

 見なくとも想像のつく、顔を真っ赤にして驚く、隣の彼の表情。

「今日ずっと考えてたんだけど、そういえば、こんな大事なこと、今まで一度も言ってなかったから。」

「………。」

 彼は恥ずかしさのあまり、黙ってしまったのだろうか。

 たまには、こういう彼の姿もいいかもしれない、と思う。



「…不満だ。」

 私の不意打ちにそう思ったのか、彼は静かに告げた。

「女に先に言われては、示しがつかぬ。」

「…は……はぁ…?」

 

 彼は私の両肩を掴んで、正面に座った。

 真剣な顔つきなのに、頬が赤くて、なんだか少しおかしい気もした。

「八雲。」

 青い双眸が私をしっかり捉える。



「俺は、お前が好きだ。

 羅刹となって、この命が何時尽きるかわからないこの身だが…

 それでも共にいたい、と願う程に。

 俺と、これから先もずっと、一緒にいてくれないか?」



 もどかしそうに、彼は言葉を紡いだ。



「何言ってんの、一君。

 …そんなの、言いに決まってるじゃない。

 私、最期の刻まで貴方の傍にいたい。」



「八雲…」



 呼ばれた名前は、呪文のように甘く。

 約束を交わすように、二人は口づける。



「大好き。」

「ああ。」

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