夢小説
□弐章
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日も暮れて、外はすでに夜。
小さな少女は父親を捜す為、京の都を歩く。
女の子の一人旅は狙われやすいと、男装をしていた。
決して安全だとは言えないが、どこか油断していたのかもしれない。
「おい、そこの小僧。」
知らない浪士が、彼女を呼び止める。
「ガキのくせに、いいもん持ってんじゃねえか。」
「小僧には過ぎたもんだろ?」
「寄越せ。
国の為に俺達が使ってやる。」
3人の浪士が彼女の持っている小太刀を指して言う。
これは、代々受け継がれている大切な小太刀。
絶対に渡せない。
彼女は逃げる。
護身術くらいなら心得ているが、まともにやり合って、この場をどうこうできる自身はない。
「−−あ!?
おい、待ちやがれ小僧!」
ずいぶん走った。
家と家の間に身を隠して、浪士が去るのを待つ。
数刻経った今、浪士は現れない。
もう、大丈夫…。
でも、その時。
「ぎゃああああああっ!?」
絶叫。
彼女は息を飲む。
「畜生、やりやがったな!」
「くそ、なんで死なねぇんだよ!
……駄目だ、こいつら刀が効かねえ!」
怖い。
彼女は状況が理解できなかった。
路地から顔を出して、覗いてみた。
浅葱色の羽織と鮮血。
「うぎゃああああああっ!?」
「ひゃはははははははは!!」
断末魔に、甲高い哄笑が重なる。
「……逃げなきゃ。」
しかし、足に力が入らず、その場にへたりこんだままだった。
狂った浅葱色は、彼女の存在に気付く。
どうやら新たな標的になってしまったらしい。
「−−っ!」
一瞬だった。
彼女は怖さ故にきつく瞳を閉じた。
それと同時に、彼女の頬に生暖かい何かが伝う。
びしゃり、と音を立てて地面に広がる鮮血。
「あーあ、残念だな……
僕ひとりで始末しちゃうつもりだったのに。
斎藤君、こんなときに限って仕事が速いよね。」
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ。
……あんたと違って、俺に戦闘狂の気は無い。」
「うわ、ひどい言い草だなあ。」
まるで僕が戦闘狂みたいだ、なんて笑う。
「……否定はしないのか。」
斎藤という男は呆れ混じりの溜め息を吐き、彼女を見る。
「でもさ、あいつらがこの子を殺しちゃうまで黙って見てれば、僕達の手間も省けたのかな?」
「さあな。
……少なくとも、その判断は俺たちが下すべきものではない。」
男達2人は、彼女の目の前で壮絶な会話をしている。
彼女の生命の危機は免れたようだが、また別な生命の危機が迫っているのも確かだった。
その時不意に、ふっと影が差した。
なびく漆黒の髪。
「……運の無い奴だ。
いいか、逃げるなよ。
背を向ければ斬る。」
彼女は訳がわからなかった。
意識が遠ざかっていく感覚だけが、ひどくはっきりわかった。
彼女はそのまま崩れるように倒れた。
「あーあ、気を失ったみたいだね。」
楽しそうに微笑む彼は、沖田 総司。
「そこにいるんでしょ、八雲。」
ざっ、とつなを分で現れた濃紫の長髪。
「倒れちゃった、じゃないだろう、総司。」
私は呆れた顔をして吐き捨てる。
「八雲、こいつを連れて帰るぞ。」
彼は私の直接の上官、泣く子も黙る鬼の副長・土方 歳三。
「あれ?
いいんですか、土方さん。
この子、さっきの見ちゃったんですよ?」
「……いちいち余計なことを喋るんじゃねえ。
下手な話を聞かせちまうと、始末せざるを得なくなるだろうが。」
沖田は土方に言った。
「この子を生かしておいても、厄介なことにしかならないと思いますけどね。」
「とにかく殺せばいいってもんじゃねぇだろ。
……こいつの処分は、帰ってから決める。」
すると寡黙だった彼・齋藤 一は言う。
「俺は副長の意見に賛成です。
長く留まれば、他の人間に見つかるかも知れない。」
今は屯所に戻るべきだ、と進言する。
それには、私も賛成だ。
「土方さん、死体の処理はどうしますか?」
「山崎に任せてある。
とりあえず、俺たちは戻るぞ。」