三国書物庫

□深い傷〜REMAKE〜
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何も無い冷たい壁に凭れて、趙雲は窓の外を見つめていた。
あれから何年経過しても胸を締め付ける愛しい想い。

それ故に、出陣以外は呂布の命でこの牢に幽閉されている。
何度も張遼が示談に来ても、気持ちは変えられなかった。
「身も心も、殿に捧げる他、貴殿に明るい未来など存在しないのだ…何故耐える事がある?」
「私が身命を賭して守るのは劉備殿だけ…心から愛するものも、馬超殿ただ一人…」
その言葉を何度もくり返した。
他に何を聞かれようとも、呂布は守る、しかし心まで捧げる気は無いと突き放してきた。

たとえ、巡り会うことが適わなくても。
約束を違える事は出来なかった。
「趙雲殿、少し宜しいか?」
張遼が扉の向こうから声をかけてくる、牢屋の中の者に許しを得る必要など無いに等しい。
「…どうぞ。」
振り向かずに答える。
鍵が開く音と重い扉が開く音が暗い部屋に響く。
「お加減はいかがだ?趙雲殿。」
ゆっくりと振り返り答える。
「…良くも、悪くもありません。」
張遼は怪訝な顔をする。
「…少し加減が悪い様に見受けるが…食事を取られていないようだな?」
「…不要なだけです。戦に出る以外何もしないんですから。空腹などありませんし。」
「しかし…。」
趙雲は微笑み首を振る。
「所で…何か御用でも?」
「…戦だ。明日…攻めてくると、伏兵からの情報。」
言葉を遮る様に趙雲は問う。
「何処に攻め入るのですか?」
「貴殿に申し上げるのは気が引けるが…」
趙雲は目を閉じる。
「…蜀…ですか。」
「…貴殿は戦えるのか?」
張遼から目を背ける様に背中を向ける。
「呂布殿の命に従うしか…今は無いでしょう。…私はその為に、あの日此処に来たのです。」
趙雲の覚悟、
張遼はため息をつく。
「今まで…殿は、貴殿を手に入れてから蜀には触れぬよう耐えてきた、しかし…此度の戦は蜀が仕掛けてきた。」
呂布の変化は傍に居て感じ、理解した、それでもそれを邪魔する物が存在するのは否めない。
猛将と恐れられ、容赦なく将兵を討ち捨ててきた男が、ただ一人の将に魅せられ翻弄されている。
「何があろうと…私は変わりません。」
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