三国書物庫

□輪廻
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貴方のいない世界など考えもしなかった

貴方がいなくなって。貴方の夢を見る様になった。

鮮明でいて、悪寒のする夢――――。

離れていく貴方の後ろ姿を、私は手を伸ばしながら空を切るような感覚に襲われながら。
貴方の名を叫ぶ事も。貴方の背中を抱き締める事も出来なかった。
目覚めて頭を抑え、頬に生温い感触、拭うように触れ、子龍はそれが涙だと気付く

隣にあった温もりがなくなって数ヵ月、こんな夢で目覚める毎日。
子龍は鍛練の衣に着替えると鏡台に座り髪を結う、あれから髪を下ろすのを止めていた。
彼が愛した自分を少しでも晒さぬ為に始めたことだった。

「趙雲殿、そろそろ行きましょう」
馬岱が呼びに来ると子龍は立ち上がり、扉の脇に立掛けた鍛練用の槍を手に取った

「おまたせしました…岱殿」
「そんなに待ってはいませんよ、さあ。」
岱は優しく微笑む。
子龍はそんな表情を見つめてしまう
良く似ている。
兄弟なのだから当然だろうが、仕草や癖が似ている。

「…どうしました?」問掛けられ焦る子龍を岱は凝視した
「…似てますか?そんなに」
「申し訳無い…岱殿」「貴方が謝ることはありませんよ…まだ辛いのですか?」
「…辛く無いと言えば嘘になります」
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