三国書物庫

□星
1ページ/2ページ

私の、大切な星
あいつの笑顔が嫌いだった
あいつの眼差しが。
何処か自信に満ちていた事が嫌いだった

だが…愛していた

「仲逹殿…」
寝台の上、朱を滲ませた裸体が私の横に居る先ほどまで私の腕の中で艶やかな声で泣いていたそれは、自信に満ちた目で私を見つめる
病が体を蝕み痩せた体は変わること無く私を求める

「…明日からは、私たちは敵同士…」
「そうだな…」
何も言えず言葉を失いながらも言葉を返す

全てを絶ち切り
彼を憎むべき者にするため

「お前が…私まで辿り着いたら…私を殺すが良い…」
孔明は苦笑いをしながら頷く
「ええ…私の手で…貴方を」

これが愛なのだ
私と…孔明の

五丈原の本陣の前に訪れたのは、孔明では無かった

孔明の後継者、姜維

「丞相の代わりに参りました」
「貴様は…姜維」
「あの方の最期に、私が…伝言を伝えに参りました」
槍を構え、私を見据える瞳

何処か、似ていた

全てに疲れた私は苦笑し、瞳を閉じ、両手を広げた

「…やるがいい…」

お前の信じた者の手で私も堕ちよう

お前の星を見届けた、私の命は、お前と共にあると…

記憶を辿り、残像を浮かべる

腹部に熱を孕んだ痛み
ありがとう…

残像が手を広げ、私を抱き締める

感じる温もり
私の消え入りそうな熱を包み込んで

愛しい貴方の
あの温もり
あの笑顔を

「…孔明…」

次に会うのは、何よりも平和で、退屈な世界

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ