三国書物庫

□業火<GOUKA>
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陸伯言は炎を見つめていた。
燃え上がる希望と大義。
無意識に炎へ向かう足を背後から誰かが止める。
「…陸遜…何を、している…」
我に返り振り替えると、周泰が袖を掴んでいる。
「しゅ…周泰殿…」
表情には見せないが、困惑しているように取れる。
「何を…している。」
+++++
火計=策とはいえ、所詮人殺しに変わり無い。
陸遜自身、いつか、己がそれに焼かれる事を何より恐れていた。
呉の為、戦乱に散った仲間達の為。
「私は、弱いんです。」
「…?」
周泰は黙って聞いている、陸遜はそんな周泰に苦笑をする。
「何も…言ってくれないんですね。」
周泰は少し困った表情で、微笑む
「何を…言って欲しい?」
若すぎる軍師、策は失敗に終わると思っていた、しかし、策は成され呉を勝利へと導いた。
徐々に陸遜を認め始め、そして心に存在が焼き付いてきていた。
「いえ…何も。周泰殿は、私をどう思います?」
唐突に聞かれ、周泰は顎に手を置き、やがて答える。
「…呂蒙殿が認めた…俺も…同感だ。」
陸遜はやんわりと微笑む。
「有難う御座います。」
周泰は酒の杯を傾ける、陸遜もけして得意では無い酒を飲み干し虚ろな視線を周泰に投げかける。
周泰の胸が高鳴りを感じ、慌てて陸遜の手を引く。
「無理を…するな。」
陸遜は手を休ませる事無く次々と注がれる酒を飲み干していく、まるで周泰を煽る様で、それに我慢の限界を感じ、周泰は杯を奪い取り、その体を無理矢理抱き上げ・
「部屋へ…戻るぞ。」
周泰は陸遜を抱き上げたまま律儀にも孫権に部屋へ戻る事を告げその場を後にした。
月明かりの差し込む通路を進みながら二人の会話は続けられた。
「陸遜…無茶をするな。」
「は…はあ。」
「軍師がそれでは皆が困る…」
陸遜はむっとし、
「私は、私です。」
周泰は抱いている陸遜を見下ろし笑う。
「…言い過ぎた。…すまない。」
宴の場からそんなに遠くない場所にある部屋に入る。
派手な装飾は住人である周泰が好まないと孫権が直々に職人に命じたらしい。
陸遜を寝台に下ろし、戦装束を黙々と脱ぎ寝衣と布を手に持ち部屋を出て行く、残された陸遜は窓の外を見つめため息を付く。
「参ったな…あの人には適わない…」
一方、部屋の扉の前で周泰は頭を抱えていた。
「部屋に…入れてしまった…」
+++++
周泰が部屋に戻ると陸遜は部屋の灯りを消し寝台の上で月を見ていた。
月明かりが陸遜の体の曲線を露にしていく、闇に目が慣れて来るとその姿が裸であると気付き、思わず扉に貼りつく。
「!!!」
声が掛けられず、顔が熱を帯びてくる。
気配に気付き、陸遜が振り返り微笑む。
「お帰りなさい。」
そんな些細な言葉にすら胸の高鳴りが増していく。
陸遜は寝台を降り、ゆっくりと周泰に向かってくる。
「りっ!!陸遜!!?」
程好く筋肉の付いた体、それでいて、滑らかな曲線美。
「貴方が…私を此処へ連れてきたのでしょう?」
気持ちとは裏腹の動揺を隠せない周泰の首下に腕を絡ませ無理矢理に唇を重ねる、吸い付いてくる唇に理性までもが吸い取られたかの様に、周泰もそれに答える
永い、口付け。
解かれ、先に口を開いたのは周泰の方だった。
陸遜の体を抱きしめ、その目を見つめる。
「もう…とめぬ。」
陸遜は頷きしがみ付く、周泰はその体を抱き上げ、寝台に運び横たえるともう一度唇を重ねた。
「聞くが…初めてか?」
「…ええ…ですが。」
「?」
「甘寧殿と凌統殿が、このような事をして愛を育むのだと色々教えてくれました。」
周泰は言葉を失う。
あまり人に干渉しないが、あの二人に関してはそのような関係は断じて有り得ないと思っていたのだ。
「…なにか?」
「い…いや…驚いただけだ。」
「では、周泰殿はご経験は?」
「男とは…無い。」
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