三国書物庫

□深紅の花びら
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はらはらと白い花びらが彼の亡骸を隠していく。
私は、ただそれを見つめるだけ、
花びらはやがて彼を覆い隠し、彼に触れる物だけが赤く色ずいていく。
まるで、それは彼が此処に存在するというように...。

「将軍!」
急いできたのか彼の肩は息を吸う度に上下している。
彼の名は秦楼(しんろう)趙雲に仕官してきてもう一年余り、当初から、落ち着きが無いのが趙雲の心配の種だった。
書から目を離し問う。
「どうしたのだ?秦楼。」
「殿がお呼びです!!」
笑いたい気持ちを抑えながら諌める。
「そんなに急がずとも良い、お前はもう少し落ち着いた方が良い。」
立ち上がり、秦楼の肩を軽く叩き開いたままの扉を閉めながら出る、さほど歩かないうちに後ろで大きな音を立て扉が閉まる、趙雲はまた頭を抱えた
「秦..楼。」
少々短気な性格で、人の話を聞かない、というより真面目すぎて空回りしてしまう、損な性格であることを皆が知っている。
上官である趙雲も熟知している分気心も知れていた。
先程の様子も「大して慌てる事では無い」と推察した
劉備の部屋の前で秦楼に待つように命じ、中へ入ると阿斗の出迎えを受ける
「趙雲!!」
「阿斗様、今は勉学のお時間でわ無いですか?」
むくれて行く阿斗を見送り劉備の方を向くと劉備はにこやかに阿斗を見ている。
「殿、用件を伺いに参りました。」
「趙雲か、実は、秦楼の事なのだが。」
「...秦楼が何か?」
不安要素が多過ぎて頭痛がする、しかし劉備の口からは思いも寄らない言葉が出てきた。
「どうだろう、そろそろ副将にしようと思うのだが、お前の方が秦楼を存じているからそれが聞きたくてな」
「大変、有難いお言葉で御座います。もう少し、我が元で見極めさせてください。」
武に長けている、それはみなが認めている。
一日たりとも鍛錬も学に置いても、休まずにこなして来た、誰が見ても申し分無い男。
「そうか。では、もう少し様子を見よう。」
「申し訳ありません。」
(私は、あれの性格を誰よりも熟知している。今のままでは、命すら惜しまないと言いかねない。)
考え事をしながら部屋を出てきた趙雲の後を何も言わずについて来る秦楼にポツリと呟く。
「なあ、秦楼。」
「はい?何でしょうか?」
「お前は、この先どうしたいと思う?」
秦楼は問いに対して間髪入れずに答えた。
「将軍の、傍らで、お守りするだけです。」
「命を懸けるのと同義ではないか?」
「?それは、当然ではないでしょうか?」
理解できないという表情で秦楼は趙雲を見つめる、趙雲はわざと視線を反らす。
「違うのだ。」
「何がですか?」
思った通りの回答に頭痛を覚え、同時に怒りさえ湧いてくる。
「なぜ、自分を大事にできぬのだ!!」
自分の頭の中の整理が着かずに趙雲はその場から走り去ってしまった、残された秦楼は頭をかいて一人問答していた。
「私とて、貴方が大切なのに。」
「お!悩んでるな秦楼?」
「ぶ!馬将軍!?」
「ぶっておい…。俺が聞いてやるから、酒持って夜来いよ。」
方に腕が回される、秦楼はため息混じりに頷いた。
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「お前の気持ちも分かるが、奴の気持ちも分かるぞ。要は、お前の性格上、いつ命を落とすか心配なんだろうな。」
「私の...命。ですか?」
酒の杯を口に運びながら馬超は眉間に皺を寄せ、
「あいつは、人の心配ばかりして、いつも自分が危険な目に会うんだ...。お前と似てるのに気付かない。」
「私と、似ている?ですか?」
「ああ、あいつは優しい奴だし、繊細だから、お前だって分かってるはずだろ?」
「...はい...。」
「明日でも謝っておけよ。俺は付いて行かないけどな。」
(一頻り着いたら、謝りに行こう。)
今夜わ飲み明かす気合満々の馬超をどうしようと悩んでいると馬岱が部屋に戻ってきた、部屋に入るなり馬超に怒声を上げている。
「あの、すまないが岱殿」
「分かってますよ、後は私に任せて。」
「かたじけない。」
早急に部屋を後にした。
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泣いている光景が脳裏に浮かぶ、泣くはずが無いのに、それは自分の思い違いかも知れないが、先程の馬超の話の所為だろうと頭を振った、気付けば趙雲の部屋の前まで来ていた。
思わず息を飲む、緊張の糸が張り詰めている。
今まで、彼の部屋に入る事を躊躇う事など無かった。
傍らに居る事が余りに当たり前に成り過ぎて、こんな時に迷うなんてと己を戒める。
(...だが、私は..貴方が!!)
押し開けようとした重い扉が開いた、趙雲と目が合い気まずい雰意気になる。
「秦...楼...。」
目の下が少し赤くなっている、
(泣いて..いたのか...??)
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