三国書物庫

□瞬きの間
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誰にも見せたことの無い顔を、
誰にも見せたことの無い涙を、
貴方は、私に見せてくれた
そして、私を愛してくれた。


「呂布殿。」
「?何だ。張遼。」
「今日は、客人をお連れした。」
呂布は不機嫌そうな顔で振り返り、張遼に抱え上げられた”客人”を見るなり、フンと鼻で笑う。
「誰だ、そいつは。」
「蜀の武将、趙雲殿です。」
「どういうことだ?説明しろ。」
「…帰還の折,戦場で倒れていたので。」
「拾ってきたのか?」
声をあげて笑う、他の者にはけして見せない姿。
張遼の前では珍しくも無い事で、張遼は眉間に皺を寄せる。
「休ませ、手当てをして差し上げたいので、これにて。」
下がろうと背中を向ける張遼に呂布は一言告げる
「良いだろう、だが、俺に牙を向ければ殺す」
「御意…」
+++++
数日間眠り続けた趙雲が目を覚ますと、見慣れぬ視界に警戒心を覚え、辺りを見回す。
「目覚められたか、趙雲殿。」
張遼の姿を凝視し起き上がろうと力を込めるが体は鉛のように重く動かない。
「つ…」
「心配せずとも、何もせぬよ。」
まだ辺りを警戒する趙雲に張遼は微笑み、
「呂布殿は、此処へは来ない。心配要らぬ」
緊張の糸が少し解れる、
しかし疑問も生まれる。
「私は…何故此処にいるのですか?」
張遼は書物から視線を外さぬまま呟く様に言う。
「貴殿が…落ちていた。」
「落ち…!!」
「まあ、倒れていたので、拾った。と言うべきかな?」
戦場で倒れた敵兵を拾ってくる者などいる訳がなく、趙雲は動揺を隠し切れずにいた。
「…貴殿は、呂布殿をどう思う?」
唐突な質問に困惑する、
「いや…噂に違わぬ猛将だと、昔に虎牢関の戦で会った事がある。」
張遼は笑う、
「そうなのか…あの方は、人の事は何も話さぬから…興味も無いのだろうと思うが。」
寂しげな表情に趙雲は戸惑う、
「張遼殿は…呂布殿をどうお思いで?」
「…あの方は…誰にも変え難く、共に高みを目指す良き武友だよ、」
意味深く感じる、そして趙雲の中にある面影をふと思い出す。
(孟起…無事でいるだろうか)
「貴殿には…思う人はいるのか?」
再び投げかけられた質問に赤面していると、張遼はにこやかに微笑み、
「私にとっての呂布殿も似たような者だ。」
けして届かない想い、誰かを思う人を深く思う苦しみ…趙雲には親近感すら覚える。
「確か…呂布殿は、舞姫に恋をされていると…」
張遼は、静かに頷く。
「それが、自然なのだよ…しかし。届かぬ想いを抱くことで、共に志を共にする力に成れば良い。」
愛にならなくとも、切なくとも。
そこに存在するだけで救われる。
「!!」
突然張遼の表情が険しくなり、立ち上がると趙雲の前に立つ、不安を隠しきれない趙雲に微笑みかける。
「心配ない、貴殿は何もせず、私の背後に居れば良い」
「何が…!!」
扉が勢いよく開かれ、呂布が肩で息をしながら入ってくる、
「どうなされた?呂布殿?」
冷静な口調。
「そいつを殺す!」
「何があったのですか?」
「気が変わった!どけ!」
「なりません!!」
張遼を突き飛ばし、趙雲の腕を乱暴に掴み、首に手をかける、鬼の形相で睨まれ、趙雲はもがく。
「貴様らが貂蝉を殺した!!」
首を掴む指先に力が込められ、息を止められる。
「貂蝉の命、貴様で償え!!」
「呂布殿!お止めくだされ!!」
必死でとめに入る張遼など者ともしない力でねじ伏せられる、趙雲は抗う事も出来ずに呂布を睨み続ける。
「殺せば良い…私の命で済むなら…。」
遠のく意識の中で、趙雲はそう呟いた。
+++++
旋律を刻み痛みが押し寄せる、趙雲は自分が生きている事に気付き、目を開く。
「!!!」
目の前には呂布が居た、呂布の動くたびに下半身に鈍痛が走る、意識が薄れる中で扉の開く音がし、呂布の動きが一瞬止まる。
「呂布殿!!お止めくだされ!」
呂布はそれに対して動きを止めるどころか尚更動きを激しくする。
「呂布殿!!!」
怒声に動きを止め、趙雲の顎を掴み張遼を睨む。
「貴様…俺の邪魔をするのか…?」
「当然の事。彼は私の客人です」
呂布は、意識を失いかけている趙雲の顔を見、鼻で笑う。
怒りに動揺を含んだ張遼の表情に憤りを覚える。
「ならば、貴様が俺の相手をしろ。」
口元を歪めて、皮肉に笑う。張遼は趙雲に視線を向ける、趙雲は意識を失い、呂布の腕の中に居た。
その姿に嫉妬を覚えずには居られない。
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