三国書物庫

□忘却の空
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優しく、柔らかい風が二人の肌を撫でていくこの時が、この想いが、愛が決して変わることは無いと、信じている…
艶のある漆黒の髪を撫でながら、孟起は微笑む、何度も繰り返してきた事が、今になっては過去の物に感じる、横で寝息を立てる子龍の肩を優しく叩くと子龍は目を覚まし微笑む「…?」
孟起はゆっくりと一語一語発音する、
「…起きる…時間だ」「…!」
子龍は頷くと寝台から降り、投げ捨ててあった衣服を纏う、孟起もそれに続いた。
窓の外には雲がゆっくりと流れていくのが見える、振り返ると着替えを済ませた子龍が孟起をじっとみている
「ん?…どうした?」「…んでも、…起…」「…心配しなくて良い…すこし、空を見ていた…おいで」
ほほえむ子龍に手を伸ばすとその腕に子龍がしがみつく、二人はそのまま部屋を出ると馬舎へ向かう、二人には言葉はない、
★★★★★★★★★★止まってしまった時間、愛しくて、大切な人の声は聞こえない、戯言を交わし、時に愛を説いた声さえ、届かない。
戦のさなか、落馬した子龍は頭を打ち、聴覚を失ってしまった、必死で話そうとしたことが返って辛くなり、孟起は話すことを止めさせた、
それから2年、今では唇の動きを読み理解できるようになった、少しづつではあるが、言葉を発することが出きるまでになってきた。「紫蘭と…出掛ける?私は?」
孟起は不安そうに紫蘭を撫でている子龍の頭を撫で、
「今日は、紫蘭を駆って、お前と、遠乗りする、約束だろ?」
子龍は微笑み、頷く。孟起は子龍を紫蘭の背に乗せるとその後ろに座り子龍を抱く形で手綱を掴んだ、
★★★★★★★★★★「………」
馬を降り、子龍は城の塀を見上げた。
とうの昔に劉備は世を去り、劉禅が国を支えることが出来ず、他国に呑み込まれた記憶が所々に刻み込まれている、幾度と無く肩を落とす子龍を見るに見かねた孟起は国を出ることを決断した、今日何のために再び此処へ来たのか、城門の向こうからそれは現れた。
「お久しぶりです、馬超殿、チョウ雲殿」 亡き諸葛亮の羽扇を片手に姜維が頭を下げる「久しぶりだな、姜維…どうだ?」
横から子龍が見上げている、姜維がそれを見ていると視線を感じた子龍と目が合う
「まだ…治らないのですか…?」
孟起は頷きながら子龍の手を握り
「…しかし、唇の動きは分かるようになった。それに、喋れるようになったぞ、」
姜維は微笑み、子龍もそれを見て微笑む
「そうですか…あ、中へお入り下さい」
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