三国書物庫

□木蓮と星
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「私は…来年も、また、この花を見ることができるのでしょうか…?」
静かな夜、月明かりに照らされ、怪しい程に美しい花を見つめ、彼は呟く。
「見れますよ…丞相…来年も再来年も。」
寝台の傍らで姜維は微笑を浮かべる。
「…変わらず…美しい花を、咲かせるのでしょうね。」
諸葛亮はそっと目を閉じた、姜維の言葉も慰めに成らない。
夜空で輝く星が、死期を告げている。
(逃げられぬ…成らば…。)
「姜維…」
「はい。」
花を眺めていた横顔に手を添える。
「私が…今出来る事を…貴方に託したい。」
姜維はその手を愛しく包み込み、零れ落ちそうな涙を堪え、そして微笑む。
「私は…かつて,司馬イと…約束をしました…もしも、私が命を落としたその時には…貴方の手で…彼を…」
目を閉じ、頷く姜維の瞳から、堪らず涙が零れ落ちる。
(貴方は…まだ…あの人を…)
報われぬ心…
救われぬ愛しい人の命…
「私は…伝えたくはありません。…しかし,他ならぬ貴方の頼みですから…」
姜維の返答に諸葛亮は微笑み
「…ありがとう…姜維…」
話し疲れたのか、そのまま眠りにつく。
夜の青を肌に纏う蒼白の顔を見つめ、姜維は声を殺して咽び泣いた。

五丈原____。
星は堕ち、諸葛亮の命は尽きた。
姜維は傍に寄り添い、その冷たい掌にあの花を載せる。
(貴方の愛した蜀を…守ります。)
司馬イを撃ち、彼に手向ける為に

姜維は馬を駆り、敵本陣を目指す

大切な人の、意思を伝える為に
己の意思を…貫くために。

〜完〜
 

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