三国書物庫

□深い傷〜REMAKE〜
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最愛の人よ…どうか、私を許してください。
それしか、貴方を守る術が無かった。
貴方は、こんな私を愚かだと嘆かれるかもしれない。
これが、私の愛だと…
どうか、

春が来るたびに、頬の傷が痛む。
片目を覆う眼帯を、馬超は外し、ため息を着く。
目を瞑り思い出すのは、彼方へ去った最愛の人。
「くそっ」
壁に拳を打付ける。
止める事も、拒む事も。
叶わないまま、彼はその身を敵に捧げた。
生きているかさえ分からずに早三年が過ぎていた。
目頭が熱を帯び、頬を伝う生ぬるい感触に手を当て拭う。
今も心に残る笑顔。
腕に蘇るあの温もり。
「子龍…。」
最愛の名を、何度囁いただろう。
帰る筈の無い声を待って。
「俺が…こんな傷など負わなければ…」
胸を締めつける。
「…また…此処にいらしたのですか…兄上。」
力なく振り返る痛々しい様に苦笑を浮かべて馬岱が微笑む。
「…岱…」
「兄上…吉報です。」
吉報…馬超にとってはその知らせは日頃から期待出来る物ではなかった、そっけ無い頷きを返す。
馬岱は微笑む。
「趙雲殿が…生きておられます。」
「!!!」
驚きを隠せずに振り返る馬超に、再び苦笑する。
「生きてるんです。確かな情報ですよ。」
「…本当なのか?」
コクリと頷く。
脳裏に浮かぶのは、笑顔では無く
あの日の趙雲、敵の返り血に塗れ呂布に促され、微笑む事も無く去る後姿。
去り際の口元の動き
ー愛しています。−
「岱…すまないが、少し一人にしてくれないか。」
馬岱は頷き、部屋を出て行く。
馬超は引き出しから書筒を出す。
一枚の紙切れ、所々に血と思しい跡がある。
破かぬようにゆっくりと開く。

=誰の所為でもなく。
此処を去る事をお許し下さい
もしも、対峙しよう時は。
躊躇無く、私の命を…
誰でも無く、貴方が。=

此処を去る日に書き記した趙雲の最後の手紙。
「…約束など…出来るものか…」
馬超は手紙を胸元に仕舞い込み、眼帯を着けた。

生きる意味など無かった。
二人の絆を知る者が、馬超の自害を許さなかった。
「生きてさえ居れば。巡り会えます。」
気休めの言葉が、今は現実を帯びている。
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