三国書物庫

□輪廻
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「そうですね…」
士官兵の鍛練を見ていた姜維が二人に気付き駆け寄ってくる
「兵たちが待ってますよ、さあ。」
子龍を鍛練に向かわせその後ろ姿を見つめる馬岱の横に立ち
「趙雲殿に…いつまで黙っているんですか」姜維の問いに前を見たまま答える
「…兄上を忘れるまで…私はいつまでも待とう…」
姜維は微笑む
「長いですよ…忘れさせることをしてみたらいかがですか?」
少し小悪魔に似た笑顔で呟く姜維を見下ろして馬岱は微笑む

心の奥底に宿る野心を気取られぬ様に。

「趙雲殿は任せた、私は行くところがあるので。」

「分かりました」
そこへ鍛練を眺めながら羽扇を扇ぐ諸葛両亮を見付け、姜維は笑顔で駆け寄る
「丞相!」
諸葛亮は馬岱の後ろ姿を見つめたまま囁くように
「姜維…岱殿に不穏な空気を感じます。なるべく目を離さぬ様にしてください」
「はい。」
「…まだ…星は生きています。」
「!!」
眉間に皺を寄せて呟く諸葛亮を見上げ、何かを悟り頷く
「生きているのですね?あの方は…」
「ええ…私の見る星が正しければ…探してください。」
「趙将軍!」
その声に振り向くと趙雲は頭を抑えて座り込んでいる
地面に赤い滴が落ちている、姜維は慌てて駆け寄り、腰に巻いた帯を外しそこに押し当て「大丈夫ですか?」
趙雲はピクリとも反応せず赤く染まった地面を見つめている
「趙雲殿!?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆闇に等しい暗がりの中で、馬超は馬岱を睨み付ける
「貴様!!なんのつもりだ!!」
馬岱の爪先が空を切り馬超の腹部に捻り込まれる
「っ!」
「…なんのつもり…ですか?…私は…兄上の溺愛なさる華を頂きたいだけですが…」
痛みに顔を歪ませながら、馬超は噛みつく
「子龍に…手を出すな!!」
馬岱は転がる馬超を見下ろし口の端を歪める「…実に美しい…苦痛に歪む表情も…あの御姿も…」
ゆっくりと座り、微笑む
「もう…屍と化した貴方に触れる術は無い…あの方も貴方が死んだと思っているんですよ。全て私の策ですが」立ち上がり背を向ける「その内に…私の愛しい華にしてあげますよ…貴方の棺の前で…」(乱れる姿は堪らないでしょうね…)
潜む殺意は口にしない
(私はいつもあなたに奪われてきた…奪われる苦痛が分からぬ貴方に教えてあげましょう…兄上殿)

馬岱は重い扉を閉め、含み笑いをする
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