Long of P
□紅紫の花弁
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―現代 国境の森―
「忘れもんない?」
「おう!」
数日後、ストリート街の仲間たちに見送られるユンホの姿が街外れの国境の森近くにあった。
「ユノ、ここからは国境の境界線になってるから本当に気をつけなよ?軍人たちがうろついてるだろうから。」
「大丈夫だって、ジョンスヒョン。俺、そういう危険回避とかの勘はいい方だから。」
「本能的に避けれるだろ、こいつなら。あんま心配してっと禿るぞ?ジョンス。」
「うぅ〜、だってぇ〜〜!」
心配性の年長者ジョンスはついに泣き出してしまい、それを「ちっ。」とか舌打ちしながらも抱き寄せて宥めるヒチョル。
「ユノ、これ。お弁当。ジェジュアと一緒に作ったから食べてね?」
「おぉ〜!ソンミナ!ありがとな!・・・なぁ、いち・・」
「イチゴもちゃんと入れてあるから安心しろ、ユノ。」
「さっすが俺のジェジュア!!愛してる〜〜!」
「はいはい、俺も愛してるよ。ったく、早く行って早く帰ってこい。」
ソンミンとジェジュンに作ってもらった弁当を大事そうに鞄に詰め込むユンホ。
身支度を整え、ユンホは改めて仲間たちを見渡した。
「じゃ、行ってくるよ。絶対に何か手がかりを見つけてくるから。」
「おう、行って来い。」
「いってきま〜す!」
片手に仲間たちの愛が詰まった鞄、もう片方の手には例のあの古びた本を携え、ユンホの“マゼンタ”への道が始まったのだった。
森の中を突き進むユンホ。
森は外界の喧騒からは想像が出来ないほど静かで空気もどこかしら凛としていた。
本にあった“古き茨の門に閉ざされし森の奥深く・・・”の言葉。
その言葉だけの手掛かりでこの森へ向かったのはユンホの野性的な勘であった。
もちろん、この森は茨でなんか閉ざされてなどいなかったし、古の建造物なども見られなかったのだが。
それでもユンホはなぜだかこの森に、説明のできない“何か”を感じていたのだ。
もちろん、その“何か”に根拠があるわけではない。
ただなんとなく、幼き頃よりこの森に言い知れぬ魅力を感じ、興味を持っていた、というだけだった。
「結構奥まで来たなぁ〜。でも、なんだろ。国境の近くだっていうからもっと殺伐としてるかと思ったのに、軍人もいなけりゃ爆撃や銃声とかも全く聞こえないや。」
いや、それより人のいるような気配すら感じない、と言った方が正しいか、とユンホはぼんやりと思った。
だが、身の危険は不思議と感じない。
むしろ“護られている”ような、そんな安心感をこの森の静けさは醸し出していた。
ぐぅ〜きゅるるる・・・・
その静かな森に響いたユンホの腹の音。
「うん、腹減った。」
ユンホは辺りを見渡して腰を下ろせるような大きな岩を見つけた。
人より身長のあるユンホだったが、その岩はユンホが腰を下ろして少し足を伸ばすにちょうどいい大きさだった。
「ぅし、休憩と行きますか。」
岩に腰を下ろし、鞄の中を探る。
手にあたる感触で弁当箱を探り当てて膝の上に置いた。
「ソンミナ〜、ジェジュア〜、いただきます!」
丁寧に両の手を合わせ、蓋を外そうとしたその時。
“♪〜・・♪・・〜”
「・・・なんの、音だ?」
森の奥深くから微かに何かの楽器の奏でる音色がユンホの耳に聞こえてきたのだった。
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