僕の声

□エッグノッグ
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4月生まれの宿命。
進学1年目では誕生日は祝われない。

(まァ、前のガッコの奴とかは別だケド)

誕生日が入学式とオリエンテーションというのは中々経験者少ないはず。
別に祝われたい訳でもないし、気にしてもないが。

(東堂とか新開は、こーゆーのマメだからなァ)

うざったい誕生日メールに一言返したのが朝。

今は昼、入学式を終えて午後のオリエンテーションまでの昼休憩。
一応学部ごとに部屋が割り振らていて、各々昼食から戻り始めている。

そんな中。


『あの、工学部の人…ですよね?』

「アァ?…ァ、入学式、隣だった?」

『そうです!あの、オリエンテーションの会場解らなくなってしまって…よければ教えて貰えませんか』


入学初日に女子に話しかけられるなんて思いもしなかった。
確か学部の女子は見た感じ3人で、コイツを除く2人は知り合いらしく、ずっと喋ってた気がする。


「…イイヨ、俺も今戻るトコだから」

『ありがとうございます!』


真面目そうで、清楚な印象を受けるのに。ハキハキした声や明るい笑顔は堅苦しさを感じさせない。
そんなコが、獣だのヤンキーだの呼ばれた俺に臆せず話しかけてきて。


『何かのご縁ですね、良ければ連絡先交換しませんか?』


と来たもんだ。
なんかのドッキリかと随分疑った。











1ヶ月と少し経って。そんなことを思い出した理由は羽影が誕生日と知ったから。


「…アレ?誕生日今日ォ?」

『え?あ、うん。どうして』

「ソレ、見えた」


学食の券売機に翳す学生証。
生年月日の日付が今日だった。

まあ、今の状況から解るように、昼飯一緒に食ったり、ノートの貸し借りしたり。人生初の女友達。
ロードが一緒に出来ないこと以外に不便は無く、寧ろヤローより気が利く分付き合いにめんどくささはない。

それが、短期間で距離が縮んだ理由。

勿論男友達もいるし、馴染みのメンツに混ざってても違和感を感じないのは、そもそも女が少ない環境だから、ってので納得してる。


「オメデト」

『ありがとう』


いつもの唐揚げ定食を買う俺の横で、ソイツはかけそばを選んだ。
だから、俺の学生証をもう1回翳して温泉卵を買う。


「安くてごめんネ」


券と料理を交換した後。
そう言って、羽影のトレイに温玉を乗せれば、目をキラキラさせて。


『いいの!?ありがとう!』


とえらく喜んだ。

(50円でこんな喜べるゥ?)

学生証を翳す理由は割引がつくからで、実費40円の卵なのが申し訳無くなった。


「………帰り、カフェでも寄るか」

『荒北君、甘いの好きなの?』

「ちげーヨ馬鹿!ケーキでも奢るって言ってんノ、鈍感!」


だから柄にも無くカフェなんて場所に誘えば、羽影はキョトンとして。
それで一気に恥ずかしくなって怒鳴ったら、今度は口元をニヤつかせながら困ったように眉を寄せた。


『ごめんなさい、考えてもなかったから…ありがとう。是非、連れてって』


えへへ。と、はにかむのが結構可愛くて。


「…ン」


本当に柄にも無く押し黙って頷いた。
黙った理由はもう一つ。


「荒北、隣いいか?」

「だりぃ、講義伸びたわ」


後から増えた馴染みの顔。
大体キツネうどん食ってる森山と、白米持参の福井。


「羽影ちゃん今日も可愛いね!それに、良いことあった?なんかいつもより可愛い」

『ありがとう森山君。うん、良いことあったの』


森山は毎回羽影を口説いてはスルーされ、福井はため息を吐きながらそれを弄る。
そろそろ見慣れた光景だ。


「そりゃよかった。森山の意味不明な ナンパよりさぞ良いことだったんだな」

「意味不明!?」

「今日の可愛いくらいで十分だろ。最初の頃のは酷かった」

「ア、君は宇宙より舞い降りし僕の麗しき天使か!ってヤツゥ?」

「それな。あと、運命の多用」

「あったあった」


一緒になって弄るのは楽しい。
羽影も真に受けてないから


『森山君の運命の人、きっと見つかるよ』

「や、優しさが痛い…」


森山をフォローという名でやんわりフっている。


(誕生日だ…って、暴露しないのネ)


会話はそのまま別のものに流れて。
羽影に起きた良いことは追求されなかった。
誕生日ということも、俺が微々たるプレゼントをしたことも、コイツは言わない。
なら別に、俺も教えてやらなくていいか、って思った。

学生証なんかで気付いた俺の特権?っていうか、俺だけ知ってる嬉しさみたいなのがあって。
優越感に浸ってたんだと思う。











「好きなの頼んでェ」

『本当にいいの?』

「うっせェ、気が変わる前に頼め!」

『じゃあ、お言葉に甘えて』


大学から少し離れたカフェ。
引っ越しの時に妹達が行きたがったから覚えてたけど、自分じゃまず来ないだろう。


『シナモンケーキとホットミルクで』

「ホットミルクぅ?ガキかヨ!」

『牛乳好きなの。温かい牛乳ってなんか落ち着かない?』

「そォ?ア、俺アイスコーヒー」


頼んだ品物は順次運ばれて。
羽影は美味しそうに、クリームのかかったケーキを頬張る。


「…甘そォー」

『甘くて美味しいよ。荒北君も一口どうぞ』

「イラネ。お前のプレゼント俺が食ってどうすんだヨ」

『そう言わず。嫌いじゃないなら食べて?誕生日ケーキは祝ってくれた人と一緒に食べるのが、一番幸せなの』


お願い。と、フォークに一口分刺して差し出されるケーキ。
その健気さに負けて受け取り、口に突っ込んだ。


「…甘ァ…」

『ケーキだからね。でも、我が儘きいてくれてありがと』


めちゃくちゃ甘くて、思わずコーヒーに手が伸びたけど。羽影は凄く嬉しそうだった。


『荒北君は誕生日いつ?』

「過ぎた」

『え?』

「4月2日ァ」

『そっか…じゃあ、来年2回分祝うね!』

「何でだヨ!普通でイイヨ!」


よし!と、やたら張り切る羽影にツッコミつつ思う。


(コレ、神様からの誕生日プレゼントだったんじゃネ?)


コレ。って、羽影のこと。
進学したての誕生日はダチに祝われ難い俺の為に、寧ろダチをプレゼントしてくれるっていう。


(なら来年は、カノジョにしてくれっかナァ)


来年、祝ってくれるらしい羽影が。
俺のものになってたらいいと思う。

今はまだ、友達でいいから。





エッグノッグ

(卵とミルク、それからシナモンの入った甘い飲み物)
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