白ひげ恋愛劇
□この手を受け入れる
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「ひーまーだー!」
「そうは言ってもエース、暇って事は平和って事だろ?良い事じゃん。」
「そうだけどさー…」
船縁で海に向かって暇だと叫ぶエースに、俺は苦笑しながらその横に並ぶ。
相変らずの海の青さに、その存在全てを消してやりたくなる。
…まぁ、海無くなったら色んな人が困るけどな…
海無くなる=船浮かべられない=モビー動けない=ニューゲート海賊王なれない=マルコが泣く。
それだけは勘弁だ。
まぁ、別の意味で鳴かせたいけどな。
「そういや、リードって泳げないのか?この間の宴の時海嫌いって言ってたけど…」
「あぁ。俺、エースやマルコと一緒で悪魔の実の能力者だから泳げないんだ。」
「え、どんな能力なんだ!?」
「んーあんまり使いたくはない能力だな。」
ニューゲートの居るこの船では、だけど。
今此処で使おうものなら、多分この船も人も全員消える。
あぁ、消える確実に消える。
マルコまで消えるから、それはしないが。
「えー見せてくれよぉー!」
「いやでも…ニュ、白ひげから許可取ったら見せてやるよエース。」
「ニュ?)じゃあ俺、親父から許可取ってくるなっ!」
そう言ってニューゲートの元へと走っていくエース。
流石に俺の能力知ってるニューゲートが許可出す訳無いだろ。
そう、思っていたんだが…
「…なーんで、許可出すかねぇ…」
「いじゃねぇか、見せるぐらい。だが船や人を消すんじゃねぇぞ。」
そんな事を言うぐらいなら許可出すなっつーの。
しかもなんだよこれは、ほぼ全船員が集まってるじゃねぇか。
俺は見世物じゃねぇぞ!
(マルコも居るし…やらない訳にはいかなくなってきてるし…)
仕方ない、腹を括ろうか。
まぁ、どうせ戦闘とかなったら隠しきれるものじゃねぇし…
戦闘になる前に見せておいた方がいいだろうな。
「えーっと、簡潔に言って俺の能力は“消す”能力だ。」
「消す能力?」
「ケシケシの実、消失人間…それが俺だ。」
背に背負った棒を手に取り、目の前に置いた樽をコツリと叩く。
マルコ達はそれを見て、怪訝そうな表情を浮かべる。
だが、俺の能力の恐ろしい所は此処からだ。
「消去(デリート)。」
「「「「!?」」」」
「た、樽が消えた?!」
「え、ちょ、何処行ったんだ!?」
「…こうやって俺の触れた物に触れたり、俺が触れたものは俺が宣言したら消えるって言う感じの能力だ。」
宣言しない限りは消える事は無い。
だが触られた奴に関しては安心出来る事では無いだろう。
逆に言えば、宣言してしまえば消されるって事だしな。
…この能力を見て、俺を見る目が変わった奴が大半だろうな。
ニューゲートは知ってるが、船員達は知らない。
俺の能力を見た奴は、大抵化け物を見る目で俺を見てくる。
まぁ、慣れてるからいいけどな。
俺の能力は世界をも消す事の出来る最強最悪の能力だ。
化け物扱いされても仕方がない。
マルコ達も、多分俺の事を化け物だと思うだろうな…
…マルコにそう思われるのはちょっと、悲しいけど。
なんて思っていたら。
「すっげぇ!なぁなぁ!本当に何でも消せるのか!?」
「え、あ、まぁ。」
「服とかも消せるのか!?」
「やった事無いけど、多分消せると…」
「じゃあサッチの服消してみてくれよ!」
「ちょ、エース!何で俺だよ!」
「え、え、いや、ちょっと。」
何だこの反応は。
いや見てなかった、聞いてなかった訳じゃないだろ。
あれ普通そこは無言シーンじゃねぇ?
何でこう、いつも通りなんだよ。
「目に見えないものとかも消せるのか?」
「い、一応は。」
「凄いね!人も消せるの?」
「ま、まぁ…やろうと思えば、多分。」
「ゴミとか消せて便利な能力だな!」
「そ、そうか?」
だ、駄目だ。
こんな反応初めて過ぎて動揺する。
何なんだコイツら。
俺の能力見て恐れないとか。
っていうか、よく見たら船員達も興奮気味だし。
え、いや本当に何なんだよ?!
「グラララ、動揺してるみてぇだなァ!」
「ど、動揺するだろこんなの。」
「そんな動揺する事なのかい?」
「だ、だって…俺の能力が怖くないのかよ?」
何でも消せる。
これはかなり怖い能力だ。
仲良くなったって、この能力の所為で人は俺から離れていく。
それなのに白ひげ海賊団の船員達は恐れる事無く、俺の能力を受け入れた。
それだけじゃなく、凄いとも言った。
多分俺は今、人生で一番動揺してるかも知れない…
「怖い訳あるかよい。」
「え…」
「能力ってのは、使う奴次第だろい。お前は悪い奴じゃねぇからねい、怖がる必要なんて何処にもねぇよい。」
「…!」
そう言ったマルコの言葉に、俺は大きく目を見開く。
一番警戒するだろうなと思ってたマルコが、そう言ってくれた。
それでも、俺は不安を消し去れずにいた。
と、その時。
「リードさん!服の汚れとか消せるんスか!」
「え、あ、まぁ…」
「洗濯要らずだ!すげぇ!」
「じゃ、じゃあGとか消せるのか!?」
「あ、あぁ。」
「「「「うぉおおおおお!!!救世主だ!!!」」」」
Gを消せると言った瞬間沸きあがる歓声。
いやいやいや、Gぐらい平気だろ。
そんなに嫌いなのか、G。
「ここにゃ、お前を嫌う奴なんざ一人もいねぇよ。」
「…!」
「情がねぇ奴らじゃねぇんだ。気をそんなに張ってんじゃねぇ。」
「ニュ、ニューゲート…でも、俺は…」
「此処に居る時ぐらい好意に甘えとけ、ハナッタレェ。」
小声でそう言って、ニューゲートが俺の頭を軽く叩く。
伸ばした手はいつも、この能力の所為で拒まれた。
だけど此処では、伸ばした手は拒まれる事は無かった。
“親父”でも拒んだこの手を、消してしまいたいと思ったこの手を。
この船の船員達は温かく受け入れてくれた。
ポカポカと暖かくなる胸に、俺は密かに笑みを浮かべた。
やっぱり、此処に来てよかった…と。
(リード、ゴミ消してくれねぇか?)
(リードの兄貴ー!G、Gが出たー!)
(おいリード、この汚れ消してくれねぇか?)
(なぁリード!この書類消して…)
(いやいやいやいや、お前ら俺をなんだと思ってんだこの野郎。)
(エース、お前後で書類追加だよい。)
(え"!?)