雪のかけら(逃亡編)


□安らぎをあなたに
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ずっと私の心は闇の中に居た。
あなたをとことん愛し貫いた事に、何も後悔は無かった。
ただ、あなたともう逢う事が出来ない。
あなたを傍で守る事が出来ない。
あなたの声が聞けない。
あなたと唇を重ねる事も、あなたの肌に触れる事も出来ない。
もう二度とあなたに逢えない。
その辛さが、私の心を負の心へと変えて行った。
辛い毎日だった。
慣れない自給自足の生活。
一人きりの夜。
月を見上げては、あなたの事ばかり考えた。
あなたと出逢っていなかったら、私はどんな人生だっただろうか?
それこそ想像が出来ない。
あなたと出逢った若い頃。
まだ十代だったあなたに、私は意図も簡単に心を奪われた。
女官と知っていながら、私はあなたに恋をした。
報われない恋と知りながらも、私はあなたを見つめ続けた。
どんな結末が待っているか。
何となくは分かっていた。
永遠に、あなたに触れる事は叶わないと、そう思っていた。
あなたと愛し合い、愛を語り合えただけで、私は幸せだった。
あなたとの別れを決意した夜、私はこれが定めなのだと、何度も言い聞かせた。
あなたに泣かれ、私も苦しかった。
あなたを連れ去って逃げたかった。
しかし、それも出来なかった。
あなたの才能を、私が奪う事は許されなかった。
あなたの名誉は、私の名誉でも有った。
あなたの名声が届く度に、私は嬉しさを感じた。
虚しさも同時に感じたが、私が決めた道だ。
何年も、何十年も、私が死ぬまで、あなたへの想いを大切にしようと、そう思っていた。
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