雪のかけら(済州島編)


□済州島の春
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済州島は春を迎えていた。
漢陽よりも暖かい済州島には、七分咲きの桜が咲いていた。
長今は長徳に頼まれ、市場へ薬材を買いに行っていた。
「今度赴任なさった水軍武官様、とっても素敵よね〜。」
「そうそう。背も高くって、綺麗なお顔で仕事も出来るそうよ。」
二人の主婦らしき女人の噂話しが、長今の耳に届いた。
きっとナウリの事だわ。
長今は、政浩の良い噂話を、自分の事の様に嬉しく感じた。
思わず、声のする方に近付いた。
「あの見習い医女といい仲みたいだけど、いつまで続くと思う?」
「そうねぇ。」
見習い医女って、わ、私の事?
長今は慌てて物陰に隠れた。
耳がダンボになる。
いい仲だなんて、そんな・・・。
長今は赤くなる。
「所詮つまみ食いでしょ?」
―え?
思いがけない言葉が飛び出し、長今は唖然とした。
「どうせ両班のお嬢さんと、そのうち結婚するわよ。遊びよ遊び。」
「そうよね〜。奴婢なんか本気で相手にする訳ないわよね〜。」
「そうそう。良くて妾でしょ?」
「ねぇ。あの子、ちゃんと分かっているのかしら。」
「大丈夫よ。そこまで世間知らずじゃないでしょ。」
「そうよねぇ。」
二人は噂話に花を咲かせ、楽しげに話し続けた。
長今は、表情を無くしていた。
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