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□均衡
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手を伸ばせば届かない、だが声は届く位置にまで俺は近付いていた。
引き返すなら今だ、先程からもう一人の俺が俺を止めるのに、俺はそれを全て無視している。
アレにそれほどの価値があるとでも?
買いかぶりすぎだろう?
(…そんなのは自分で理解してる、それでも触れたいのは?)
「嗚呼、それだけ魅力があるんだな」
「え?」
俺の声を拾って問題のアレことソイツは間抜けとも取れる顔と声でこちらを向いた。
風によって流された雲で辺りが明るくなったり暗くなったりする。切れ切れの月明かりに照らされた顔はその危うさを引き立てて妖しさまで生んでいた。
真っ直ぐでどこか拒絶している瞳が俺を捉えて離さない。俺はその瞳から逸らすことも叶わない、否、最初から逸らす気など無いのかも知れない。
静かな夜にどれだけの間、2人で見つめ合っていただろう、それは酷く永い時間に感じた。
「…鍛錬か?」
「まぁ…」
「こんな時間までか?」
「こんな時間だからですよ、邪魔されないですし」
「それもそうか…まぁ俺に邪魔されてるがな」
「…邪魔しにきたんですか」
溜め息を付いて俺から視線を逸らした。
俺はそのことにどうしようもなく苛ついて空いていた距離を縮める。それに気付いてソイツは俺を再び視界にいれた。
(それで良い…俺から視線逸らすな)
(ずっと、俺を…俺だけを見ていればいい)
(他の奴なんか気にならないくらい俺だけを…)