2
□真っ黒な肺と
1ページ/2ページ
ふわり、ふわり、
香るは貴方の紫煙。
惑わし、安息させる
質の悪い香り。
別に煙草が凄い好きな訳じゃない。
ただ、言うなればふと吸いたくなるだけで。
ふと欲しくなるモノが煙草だったというだけで、別段凄く好きな訳でも依存している訳でもない。
むしろ、時々自分は煙草が嫌いなんじゃないかと思う。
自分の匂いは良い。むしろ好きだ。
だけど他人の吸う煙草の臭いは嫌いでたまらなかった。
銘柄がそうさせるのか、はたまた自分が吸えない腹立たしさか他人が吸っているのが許せなかったんだ。
彼が煙草を吸うのは付き合う前から知っていた。
恋は盲目と言うように彼が煙草を吸うことは不思議と気にならなかったのを覚えている。
付き合って、恋から愛に変わっても煙草の存在は気にならなかった。
むしろ…、
阿近さんが煙草を吸っているのが見えた。
ふわりと香る、阿近さん特製のそれは決して良い香りとはいえない。
別に花や何かではないのだから甘い匂いがする訳でもないのにその匂いが好きだと思うのは何故なのか。
視線に気付いたのか阿近さんは俺を視界に入れるとおもむろに意地悪く笑った。
「…何ですか」
「否、また下らねぇことでも考えてんのかと思ってな」
「下らないって何ですか…」
「さぁな、で今度は何だ?」
まだ何も言ってないのに、からかわれるような気がして口を閉ざせば彼はまた意地悪く笑うから、俺は居たたまれなくなるのだ。
「別に…阿近さんの吸う煙草の匂いは嫌いじゃないなって思ったんです」
「好きの間違いじゃねぇのか?」
「何でやねんっ//」
「動揺し過ぎだ馬鹿」
至極楽しそうに言う阿近さんが憎いと思う反面、俺だけに見せる表情に泣きたくなる。
そんな俺に気付かないように彼は愉快そう笑って。
ふわりと浮かぶ紫煙が彼の気持ちそのものの様に楽しげに揺れる。