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□見上げた空
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時の流れは恐ろしいと思う。
否、時の流れではなく、多忙が恐ろしいのだと思い直した。
毎日、ゆっくり歩いて帰る余裕があったあの頃。
帰り道では何度も空を見上げていた。
ゆっくり歩くことで流れる景色と空もゆっくりで。
確かにそれ以外に帰り道ですることはなかったかもしれない。
それでも、毎日見上げる空は何とも美しく。
そして、何より同じ空など在りはしなかった。
早めの時間なら、まだ水色の残る空。
それより数分遅れれば水色と黄色の同化した空。
水色や黄色が橙に塗り替えられていく空。
そして、まるであの人の瞳を思わせるような紅が、青を呑み込んで青紫に染まる空。
毎日見上げる空は一つとして同じはなく、俺を穏やかにさせ、癒してくれた。
それらは、苦しい日は涙を呼んで、嬉しい日は胸中を温めた。
そうやって、俺は何度も見上げる空に幸せを、幸福をもらった。
だが、今の俺はどうだろう?
多忙すぎる毎日に呑まれて、空を見上げる余裕どころか、帰る足すらおぼつかない。
それでも、今こうやって思うことがあって、見上げた空は、黒のような深い紺色をしていて、星すらあまり見えなかった。
視力は多少落ちたかもしれない。
でも、その空は厚いグレーの雲が月すら呑んで暗い色だけを示していた。