ブチコミ
□酒癖注意報
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その日、ETUのGMの後藤恒生は何故、『我慢』しなかったんだろうと頭を抱えた。
ETUの新監督と言えば『達海 猛』と言うのはサッカー関連の人ならだいたい知っている。
その達海監督がインタビュー嫌いなのも知らない人は少ないだろう。
ならその達海監督が酒癖が悪いということをどれだけの人が知っているのだろうか。
多分、知っている人はETUの人間の一握りだ。
そんな中で特にコイツの酒癖の悪さを知っているのは俺と言っても過言ではないと思う。
付き合いが長いと言えばそれまでだが、まぁ、所謂俺と達海はそう言う関係である。
だからか、この癖が出るのはまだ辛うじて俺の前だけだ。
まぁ、一歩手前は先日、フロントとコーチ陣の飲み会で現れていたがまぁまだいいということにしておく。
で、この癖と言うのは…
「ごとー!」
「…なんだ?」
「もっとのめってばぁー!」
「のんでるよ、(呑んでるから困ってるんじゃないか)」
こぼれ落ちそうになる、ため息を必死に吸い込んでやり過ごす。
明日は久しぶりのオフ。
選手もコーチ、フロント陣も珍しくオフと言う珍しい日だった。
俺なんかはどんなにオフでも仕事が残っているから休みなんてことはないのだが、今日は急ぎの仕事がうまく片付いた上、他の仕事もほとんど片付いたとあって同じく珍しく暇だった達海を誘って俺の家へと招いた。
走らせた車の中で達海が久しぶりに呑みたいと言うので途中、コンビニで酒とツマミなどを買ってから家へとついたのは夕飯には遅いくらい時間で。
それからの酒盛りとなった。
いつもなら家に帰らなきゃならないと理性を働かせて飲み過ぎるのを『我慢』している俺だが、自宅と言うのと帰る必要がないことで次々に酒を開けた。
俺でもそうなのだ。
基本我慢しない達海なんかはテンション高々に早いピッチで酒を煽っていた。
そして、二時間もしないうちに達海は泥酔状態となった。
いつもの俺なら止めたのだが、俺も酔っていて達海を止めるのを忘れていた。
また勝手にこぼれ落ちそうになるため息を何とか我慢して達海の手を掴む。
と言っても今更、酒を取り上げるわけではない。
「ほら、達海…噛むなって言ってるだろ」
「ぶー…だってかみたいもんよ」
「だからって自分の手やら指を噛むのはやめろ…歯形だらけじゃないか」
「かげんはしてるってー」
「そう言うことじゃないだろ…」
結局、我慢できなくってため息が口から出てしまった。
「なんだよ、もおー!割りばしはかむなっていうから手にしたのにさー」
「…まだ、割りばしの方がマシだったよ」
「じゃあ割りばしー」
「歯が弱るから止めとけ」
「そんなにヤワじゃねーし!」
だからそう言うことじゃない。
達海の酒癖は悪い。
しかし、一番質の悪いのはこの泥酔時に現れる『噛み癖』だ。
先日の飲み会でもこの症状は現れたがまだ地味に割りばしを噛むだけで済んでいたのでまだよかった。
この症状は酔えば酔うほど悪化し、割りばしを噛むのからおしぼりを噛むに進化し、やがて自分の手やら指を噛み出す。
今も達海の手や指は歯形がこれでもかと付き、噛む力がだんだん強くなったのか手などは真っ赤だ。
まぁ、本人が言うように加減はしているのか幸い血は出ていないが。
「かむな、かむな!ごとーそればっか!」
「そんな痛々しい手やらを見てたら止めたくもなる」
「だって歯がゆいしー」
「子犬か!」
「ぶー!」
「ぶーじゃなくて…」
頭を抱えると達海は拗ねたようにいつもより唇を尖らして、睨んでくる。
しかし、それも続かなかったのか歯をガチガチ鳴らし出した。
相当、歯がゆいようだ。
「そんなに噛みたいならスルメでも噛んでろよ」
「はらいっぱい。ってかさ、かみたいだけで噛みきりたいわけじゃないし」
「…この酔っ払い」
「おまえにいわれたかないんですけど!」
「俺はまだマシ。」
「おれだっておんなじようなもんだろー」
「…ひらがな喋りが言うか」
ため息一つ吐いて、もう一度頭を抱えれば『がぶっ』と音がしそうな勢いと痛みが腕に広がった。
「痛っ!こら、達海!」
「ふぉほーふぁふぁはふひぃ」
「…俺は悪くないだろ」
「…よくわかったねー。なに、やっぱりアイとか?」
「はいはい、そうだよ。愛だよ、愛」
「なにそのなげやりかん!あいがたんねーぞ、ごとー!」
「悪かったな愛が足んなくて…で、気は済んだのか?」
「…まだ」
「なら、大人しく噛んでろ。腕なら貸してやるから」
ぶつぶつと「ひとのってもっと加減しなきゃなんないからあんまり満足しない」とボヤきながらも達海は腕捲りされて曝されていた俺の腕に噛みついた。
がじがじと小刻みに甘噛みよりは強い力で腕が噛まされる。
ちらっと己の腕を確認するともう歯形で埋め作られていた。
「(…同じ場所じゃない分、痛みが分散されて喜んだ方がいいのか、歯形だらけになって嘆いた方がいいのか…)」
悩むな、とどうでも良いことを考えながらビールを流し込む。
ふと、視線を感じた気がして下を向けば俺を噛んだまま達海が上目遣いで俺を見ていた。
何だ?と視線で返しても達海は喋らない。
噛んでいるから喋れないのかもしれないが。
まぁ、だいたい求めていることは理解している。
これだけ酔っているのだ、理由は一つだろう。
「(噛み癖の最終形態か…)」
最早、ため息を取り越して苦笑いしか出てこない。
「ごとー…」
「あぁ、」
一つ返事をして達海の唇にキスを送る。
『それじゃない』と顔を歪められてしまったが、そのまま頬や額に口付けを贈って、耳にたどり着くと甘く噛んだ。
「ん、」
鼻にかかったような吐息を吐いて、達海の瞳が甘くなる。
それに気を良くして、もう一度耳を今度は先程より強く噛んだ。
そのまま滑り落ちるように唇で辿れば首筋を曝すように達海が仰け反った。
その自然な動きに笑って、それから曝されたその首筋を噛んだ。
「ぁ、」
「達海…」
「…もっと」
「あぁ、」
言われた通りに首筋を強弱をつけて噛んでいく。
噛めば噛むほど達海はうっとりと瞳を甘くしていった。
達海は泥酔すると噛む癖がある。
それは酔えば酔うほど悪化し、割りばしなどの物から人へと変化し、やがてどういう化学反応を起こすのかやたら噛まれたがるようになる。
決して痛くないわけがないのに噛めば噛むほど、達海は欲に溺れたような顔を見せた。
我慢出来ずに薄くつけた鬱血と歯形で首筋が埋まると今度は下に下がるように鎖骨へと辿り着き、また歯形を残す。
鬱血は明日には消えるだろう薄さで首筋同様、鎖骨にも印をつけててから、達海の服を脱がした。
フローリングと酒の缶の海に横たえた達海を見つめる。
はだけたように脱げる服の隙間から俺がつけた歯形と今度は強くつけても問題ないと吸い付いた真っ赤な鬱血が見えた。
それに小さく興奮すると、達海は微かに笑って腕を俺に向かって伸ばして、首筋に絡ませて。
俺はぎゅっと回されたそれを確認すると、浮いて出来た達海の背に腕を回して起こす。
そのまま膝の後ろにも腕を入れて立ち上がった。
きゃらきゃらと楽しそうに笑う達海の声を耳元で聞きながら俺はベッドのある寝室へと足を進め、今度は欲の海に2人で溺れたのだった。
end
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