血界戦線
□君は果たせるか
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視えるはずのないものが視える。
たぶん、だけど。
じゃなきゃ、こんなに切なくて愛しく思うなんて有り得ない。
氷のように刺す冷徹さを持つくせに、雪解けの朝のような切なくて温かさを持つ貴方は、俺の『何』でしたか?
最初に視たのは物心が付いた頃か。
妹と遊んでいる部屋の何でもない空間にその人は『居た』。
何をするわけもなく、立っている男性に不思議と恐怖は無かった。
ただ、酷く寂しいような叫び泣きたくなるような感情が支配した。
抱き付きたいのか、抱き締めたいのかも分からず、酷く揺さぶられた。
その不思議な人は俺にしか視えないようで、度々何もない場所を見つめる俺に家族は不思議そうにしていた。
度々視るからか夢にまで出てくるようになった。
それでも会話をしたいとも思わなかった。
たぶん、どこかで見えるだけでそこには本当に『居る』訳ではないと感じていたんだろう。
まるで記憶を辿るような感覚。
そして、
「(あぁ、何か約束をしたんだ)」
漠然とソレだけを理解したのは俺が19歳になった日だった。
それと同時に薄ぼんやり視えていた『顔』が分からなくなった瞬間でもあった。
ーーーーーー
俺が実家を出たのはそれから数ヶ月後のことだった。
妹の治療法を探すこと、自分のしたい仕事をすること。
ソレが一番の理由な筈だ。
だけど、今行かなきゃ『約束』を果たせない気もしたのも事実だった。
だんだん淘汰されていく『記憶』の記憶。
どこに行けば良いんだろう?
『誰』に逢えば『正解』なんだろう?
途方もない気持ちを抱いて、色々な街を転々とした。
生活の事とかもあって、日雇いのバイトもした。
それでも定住しない生活での度重なる引っ越しな上に仕送りとくれば、金銭的に苦しい物があって、腹を空かせてることも少なくなかった。
「(あー…ヤバいかも、?)」
唐突に『倒れる』のが分かったかと思うと、次にはブラックアウトしていた。
ーーーーーー
意識が浮上する感覚と安心する匂い、美味しそうな匂いを感じて俺はやっと目覚めた。
「…ここ、?」
「お、目を覚ましたかい?」
「ぅえ?!」
気配がしなかったのでよけいに吃驚してしまう。
「っ…あ、と?」
「混乱してるところ悪いけど、ずっと腹なってるし、とりあえず食べれそうなら食べたらどうだい?話はそれからすればいい。」
微笑ましそうに言われて恥ずかしい。
「ん、?」
唐突な違和感。
『何』が?と聞かれても何が分からないのか分からない。
「どうした?僕の顔に何か付いてるかい?」
「……『傷』はないんすね」
「え?」
「あれ?!何言ってんだ?え、と…!」
「…はは、!」
「あ、あの…?」
「ありがとう、逢いに来てくれて」
「え、どういう意味です?」
「さぁ、分かんないけど言わなきゃいけない気がしたんだよ。」
「は、はぁ…?」
「ははは、ごめんよ?僕はスティーブン。スティーブン・A・スカーフェイズだ。君は?」
「あ、…レオナルド、レオナルド・ウォッチです。」
「レオナルド…レオね。なぁ、レオ」
「なんすか?」
「もし良かったら、僕と暮らさないかい?」
「ぇ…えーー?!!」
これが俺とスティーブンさんとの始まりだった。
『なぁ、少年?』
『…2人だけの時は名前の約束じゃないっすか』
『そうだったな、ごめん。』
『で、なんです?』
『もう一つ2人の『約束』を増やしたいんだけど』
『どんな『約束』です?』
『たぶん…否、間違いなく僕は『独り』だろうから『逢い』に来てよ』
『…意味わかんねーですけど』
『うん、だから来世なんてモノがあるならまた『逢い』に来てってこと』
『はぁ?!マジで意味わかんねー!だいたい来世とかあっても覚えてないでしょーが!』
『うーん、そうか…じゃあ『逢い』に行くとか?』
『いや、さっき来いって言ってませんでした?!』
『だから残留思念的なもので』
『怖っ!執着心半端ねー!!』
『えーだめ?』
『あーもう!分かりましたよ!でも『話し』かけてくるのはナシっすよ?間違いなく怖くて泣く!』
『ボーっと立ってる方が怖くないかい?まぁいいか、じゃあ『約束』ね。『逢い』に行くから時が来たらちゃんとレオが『逢い』に来てね』
『ハイハイ…『約束』しますよ』