血界戦線

□殺し屋って言わないで
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世界平和、親交、愛…なんてクソったれな響きなのか。



阿鼻叫喚で平和が命取りまでは理解出来ないし。

美しいものは美しいと思うから、青々と光を反射しつつ煌めく湖なんてのはやっぱり綺麗で全くないのも頂けないから、あっても良いと思う。
だからそこまで治安が悪すぎると自然破壊が起きてしまうのでやっぱり行きすぎても良くない。


それでも平和な世の中はクソ食らえだと思うのだ。


数年前に訪ねた日本みたいなのはまぁいい。
平和ばかりで。
いつもの町中でいきなり殺人ウイルスが巻かれる心配も、己が連続殺傷事件に巻き込まれる心配も一つも懸念せず、のうのうと平和ボケした顔をさらして歩いてせかせか時間に追われる様は在る意味美しい。
まぁそう見えただけで巻き込まれる人間も居たんだろうけど、あれはあのままが美しいお国柄だから対象外だ。


俺が気にくわないのはある程度治安が悪くて搾取されるのが当たり前の国で自分は関係ないって顔した奴らだ。
日本人との違いは自分には関係ない顔を同じようにしつつ根幹が違うところ。

俺には関係ない。だってやり返せるからな。みたいな奴らが気にくわないのだ。


あれは本当に美しくもないし、いけ好かない。


だが、巻き込まれても逆にやり返してやると顔に滲ませながら歩く奴らが、手のひらを返したように恐怖におののく様は美しい。


あれを引き出す瞬間がたまらなく生きていると感じる。

だから平和な世の中はクソ食らえだと思うのだ。

その点このHLはいい。
なんかぐちゃぐちゃに入り交じりつつ適度に美しさと治安の悪さが綺麗に境界別れしていて楽しい。


今日も今日とてそんな街でいきまいてるのを隠しつつも隠しきれてない奴らをなぶり殺す。


他人から言わすと俺は殺人鬼らしい。
鬼…嫌いな響きではない。
日本で見た浮世絵?の鬼は美しかったし。




「(あれ?俺って親日家みたいじゃん…)」




日本を否定はしないが『親』日家の響きはあまり好きくないな。

なんとなく。




ぼんやり考えていると手がヌメリを増した。

今日はナイフではなく素手だったのに思考に囚われて獲物の顔を見るのを忘れていた。

まぁ殺すつもりで殴ったので見れたものではないのだが。




「(やっぱりナイフの方が良かったかなー)」




獲物を殴る手は止めず床に仰向けで倒れた獲物に跨いだまま再度考える。

しかし、すぐにその理由を思い出し諦めた。


銃は殺した感触が薄いから気にくわないが、ナイフは好きだ。
しかし、あれはそこそこの値段がする。
殺した後すぐにどんなに手入れをしてもやはり油汚れは落ちにくい。
食器用洗剤でゴシゴシしても血を含んだ油は落ちにくいし、臭いもそれなりにする。

洗剤代は馬鹿にならないし、研ぐのも刃先がギザギザしているとやりにくいからなかなかの手間なのだ。

結果かなりのナイフが早い確率でダメになる。
まぁ安価なナイフが敗因かも知れない。

かといってナイフを大量購入する馬鹿にもなりたくない。
殺人鬼なりに殺人鬼のポリシーがあるのだ。
そんな間抜けな捕まり方はしたくない。


だから今日は素手だったのだが、素手は如何せん汚れすぎる。
手がまぁまぁ痛いのと疲れるのは良いのだが汚れすぎるのがネックだ。
ついでにナイフをネット購入はしない。
自分で自分の納得のいくフォルム、切れ味を納得いく値段で買うのがいいので現物と違う確率の高いポチっと購入は嫌いだ。
あと数本のナイフに高い送料も納得いかない。

なかなか自分のルールがあって面倒だがそれも一つの作業の中の一つという決めごとなので、自分で決めたそれを自分で破るのは少し違う。




「ありゃ、もう死んだの?」




ちょっと早すぎないか。
今日は素手なんだけど。
ついでにこの獲物は路地裏散歩していた俺をカツアゲしようとした馬鹿である。
まぁだから俺のポリシーに沿って獲物判定されたわけだが。



思考があちらこちらに飛んでいてあまり楽しめなかったなと落ち込んでいると、後ろ…路地裏の入り口とでも言えばいいのかそちらからゆっくりとした拍手が聞こえてきた。




「素晴らシい!見事な腕前ダったね!!」


「……どちらさま?」




微かに入り口側の明るさで理解できた恰幅の良い異界人がまあまあのスーツに身を包み拍手をしながら歩いてきた。
なにそれシュール(笑)

ちょっと内心小馬鹿にしつつも立ち上がって身体ごとそちらを向けばやっと拍手は止んだ。
薄暗く細い路地裏ではなかなかに反響して五月蠅かったのでやんでほっとする。




「君、最近噂の殺人鬼さんダね?」


「…(いや、ほぼ断定系で聞かれても知らんし)」


「どうダい?ウチの専属にならなィか、君の好きな殺しができて報酬モ出る!」


「(ちょいちょいイントネーション変…)」


「悪くはナい話ダろう?」


「そうですね…」


「なラ!」




「…アナタが今、僕に殺せない奴なら良いですよ」


「え?」




スパーっと首に線が走ると次いで首がゴトンと落ちた。
もちろん、俺のじゃない。




「あーあー、結局ナイフ使っちゃった」




ナイフを払って血を切るともう死んだ異界人のスーツで綺麗に拭いてからナイフを元の場所へ戻す。
…コイツのスーツ汚かったらどうするかとは悩んだが諦めた。



「えーと…」




今日は予定外の殺人…人?二件。
ナイフは帰ってすぐに洗浄。

頭の中のメモに書き足すとやっと路地裏から出て家を目指すべく歩き出した。




「ったく、俺は殺人鬼なの。殺し屋なんてポリシーに反するわ」




何で自分の殺したくない奴を殺さなきゃいけないのか。
殺したい奴を殺したいと思ったときに殺すから殺人鬼なのに。

あの手の理解してない馬鹿は減らなくて困る。




「(まぁもう聞こえてないだろうけど)」
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