血界戦線

□小さい天使拾ったった!
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異界と現世が交わる場所HL。
魑魅魍魎が闊歩するこの街は何というかハチャメチャだ。


その街で超人秘密結社ライブラの副官的存在として、働く男の名前はティーブン・A・スターフェイズ。




彼はとにかく疲れていた。
すごく疲れていた。

ハチャメチャな街にも、その街をなるべく平和であろうとするライブラにも、そして親友の信念を守ろうと、ライブラのメンバーには言えないことを陰ながら私設部隊の力を貸りつつ、やり遂げることも。
ある意味全て…スティーブンがスティーブン足るように行ってきた全てに疲れていた。

いっそ嫌気がさして逃げれたら、楽だったのに。
スティーブンは疲れてはいたものの嫌には、なっていなかった。

だからこそ、放り投げることは不可能であったし、故にひたすら疲れていた。
疲れているだけだった。
同僚に腹黒やらはたまた冷血やら言われていても、多少人間離れはしていても、スティーブンは人間であったから、日々癒やしを求めるのはまた自然なことだった。



スティーブンは沢山のことに手を出し、癒やしを探した。
恋愛、交友、マッサージでも何でも手を出した。
しかし、癒やしには程遠かった。

恋愛はまず心身共に疲労を増すだけだった。
そもそも日々の情報収集に『女』を使うのに、それ以外で『恋愛』とは…結果、ただただ疲れた。
だいたい、スティーブンに寄ってくる女は情報収集にも使うタイプの『女』ばかりであった。見目麗しく、出るとこ出て、凹むとこ凹んで、少し香水がきついタイプの女。
仕事でも私生活でも同じような女を相手にして、疲れるなという方がスティーブンには難しい。
これは普通の男性にはない悩みだがスティーブンには関係ない。


次に交友。
スティーブンは私生活くらい『普通』を味わおうと友達作りに精を出した。
例え、この場合の『普通』が世間での少し上流階級的な交流でも、スティーブンは『普通』な友達を欲して、作ってみた。
しかし、これも失敗した。
それどころか何度も失敗した。

必ず今度こそ!と意気込んで友達をホームパーティを兼ねて、家に呼ぶが、必ずそのタイミングで『敵』だと判明した。
たぶんスティーブンは友達を見る目がない。
親友のクラウスで、見る目を使い切った気がある。
とにかく『敵』ならば殺るしかない。
結果、疲れるだけでなく心が痛んだ。


最後に、なら純粋にマッサージとか身体だけの癒やしにしてみたらと考えた。
しかし、これも癒やしには程遠かった。
『友達』の二の舞のごとく命を狙われたり…を繰り返しているうちにスティーブンの方が信用出来なくなった。
だいたい、マッサージはうつ伏せになるのに、安心できるか!とスティーブンはもう開き直るくらいには、命の危機に面していた。
運動とかだって同じだ。
水泳は水着だけ、が安心出来ないし、温泉は血凍道関係の刺青が邪魔をするし、刺青をクリアしてもやっぱり薄着過ぎて安心出来なかった。

それほど、スティーブンは毎日に疲れていたし、同時に命が狙われる回数も少なくなかったのである。
それに日夜、平和のためこの街を走り回るのに、私生活までも運動したくなかった。



スティーブンはもう疲れすぎて頭を抱えた。
仕事では肉体労働、『女』、書類整理の山。
私生活には癒やしどころか命の危機。

もう連日の疲れがピークで、眠いのに寝れないし、お腹は空くのに食欲が湧かない。
所謂、不眠症、拒食症の初期症状が出るくらいには疲れすぎて、スティーブンはもう頭を抱えた。



スティーブンは日々に疲れすぎて限界だった。
だからこそ、それはスティーブンにとって青天の霹靂だった。
というか、スティーブンは疲れすぎてもう可笑しかった。
でなければ、あんな行動には出ないが、スティーブン的にはもうどうでもいい。
むしろ、可笑しくて正解!とあの時のスティーブンを褒めたいくらいには、素敵な出会いだった。





スティーブンは連日の溜まった疲れがピークに達していた上に、どこぞの屑が書類整理の山を増やしてくれたせいで四徹目だった。
いつもなら多少耐えれる四徹目が、限界値突破するくらいには疲労がピークだった。

そんな日だった。

スティーブンは疲れすぎてか、わざわざ五月蝿い街へ自ら出て、食欲はないのに昼食を買いに出かけた。
そして、ふらふらしつつサブウェイで昼食をテイクアウトにすると、再び事務所に戻るべく、五月蝿い街に出た。

途中、スティーブンはこの街が五月蝿いのは、五月蝿い連中が多いからだと謎思考に陥って、勝手に戻りながら『掃除』を始めた。

一匹、二匹、三匹と虫を踏みつけるように五月蝿い連中を血凍道で『掃除』していく。
スティーブンは虚ろな目をしつつも、だんだん『掃除』が楽しくなってきた。
早く戻って書類整理をしなくては、とは思ったが無性に『掃除』が楽しい。
テスト前の学生が妙に部屋の掃除に勤しむ様と同じ心理だったが、スティーブンは分からなかった。

ただ『掃除』するのがスティーブンには楽しく、普通に真っ直ぐ行けば早いのに、わざわざ生存率が低そうな狭い路地に入るくらいにはスティーブンは疲れすぎて、もうよくわからないハイ状態だった。



そして、その狭い路地にソイツらはいたのである。

ソイツらはスティーブンにご丁寧に背を向け、地面に向かって叫び、地面を蹴りつけていた。

スティーブンは首を傾げた。
地面を脅すように叫んで、蹴りつけて、なにが楽しいのだろうと。
そして、スティーブンはコイツら五月蝿いし、楽しいならいっそ真似ようと、謎思考で地面を蹴りつけた。
叫ぶ元気はないが、ご丁寧にエスメラルダ式血凍道と声に出して、蹴りつけた。


結果、背を向けていた連中はスティーブンに気付かないまま、凍らされたが、スティーブンには関係ないことである。
むしろ、これ、楽しいかな?とスティーブンはまた首を傾げた。
酷すぎる思考回路である。



そうして、スティーブンはソレを見つけた。



「ぅ、みー」


「うみー?ねこかな?ねこやいー」


「…ねこ、どこ?」



スティーブン的には、何故か凍っている連中の中心でソレが鳴いているのを見つけた。
正確には痛くて怖くて、か細く『泣いて』いたため、猫っぽく聞こえただけで、決して「うみー」とは泣いてない。
そして、スティーブンは猫だと思った塊がヨロヨロと起きて、逆に猫について聞いてくる。


だがスティーブンには、もう猫なんかどうでもよかった。
何故ならスティーブンは、やっとソレをマトモに見たからだ。

結果、スティーブンの背後で雷がなった気がした。
あくまでも気がしただけである。


痛めつけられてボロボロになってもまだ分かる、ふわふわな髪に、白くて柔らかそうな肌。
まつげの長い特徴的な糸目に、赤い唇。
5、6歳の男の子がそこに座り込んでいた。



「ナニコレ?」



しかし、スティーブンには『人間の男の子』と判断するマトモな脳は今ない。



「え?…あ。あ、りがとうごぜーます?」


「……」



むしろ、助けてくれたと判断してお礼が言える分、男の子の方がマトモだ。



「あ、の?」


「てんし!てんしおちてる!」



スティーブンは疲れすぎて色々ピークである。
もうスムーズな思考回路はとうにないし、呂律も怪しい。



「、てんし?どこ?」


「おちてるなら、ひろっていいよねー!」


「え、え?!」


「ひろったった!」


「えー?!」



スティーブンは小さい天使を許可なく、問答無用で拾った。
…天使に見間違うほど可愛い、ヒューマーの男の子をスティーブンは、勝手に拾った。
もう誘拐した、のほうが正しいが、拾った。

そして、血迷っているスティーブンはその男の子を事務所まで小脇に抱えて、戻った。

そう、小脇に抱えて、戻った。ライブラの事務所に。
皆が居るライブラに、である。


「みんなー」


「「「「?」」」」


「てんしひろった!」


「ぅう…ここ、どこですか?」


「「「誘拐?!」」」



結果、半泣きの男の子を見た面々は阿鼻叫喚である。



「あーかわいい。てんしって、さいこーの『いやし』なんだ!」



スティーブンは日々、疲れていた。
疲れすぎて、もう可笑しかった。
それくらいには疲れていた。

そんなスティーブンは癒しを求めていた。
しかし、どれも癒しにはならなかった。

そんなある日、スティーブンは最上級の『癒し』を拾った。

小さな天使のような、可愛い人間の男の子を拾った。

というか勝手に拾ってきた。



「レオは本当に可愛いね」


「すてぃーぶんさん、またねてないな!」


「まだ平気だよ、なんせレオが居るからね!」


「…はぁ」



こうして、ライブラに新たな人間が半ば強引に加入した。

ただ、それが天使のように可愛い子供で。
スティーブンが癒しの為だけに拾ってきた男の子なだけの話である。



「あーもう!本当にあの日の僕はよくやった!自分を自分で褒めたい!」



だそうである。



end。
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