血界戦線

□『普通』を逸脱した。
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ここは異界と現世が入り交じる街、ヘルサレムズ・ロット…という訳ではない。


神々の義眼保有者でライブラに所属し、ハチャメチャな街で人生を駆け抜けていた少年はもう居ない。

それはもう過去の出来事であり、今のレオナルド・ウォッチには関係のない出来事だ。


もし、どうやっても関係があると言うなら。
前世という言葉を使って良いなら。
『前世』が間違いなくソレだと『今』のレオナルド・ウォッチは言える、それくらいの関係だ。


異界と現世が入り交じる、ハチャメチャな街がない世界。
それが今のレオナルドの生きる世界だ。

レオナルドはこの『普通』の世界に生まれて早十数年。
普通に学園生活を送る学生だ。
ちょっと見覚えのある奴、ない奴と時々バカ騒ぎするくらい『普通』の学生を今している。
もちろん、義眼なんてものはない。

レオナルドはいつものように登校すると、自分用にあてがわれたロッカーを開けた。
学生特有の少しゴチャゴチャしたロッカー。
そのロッカーの辛うじて空いたスペースに手紙が置かれている。

とりあえず、コレは『普通』ではないと彼は思った。
しかし、このまま放置しても、すっきりしなくて気持ち悪い。
レオナルドはそのロッカー内で妙に存在感を出す、白い封筒に覆われた手紙を手にとった。
そのまま、大して外見は確認せずに手紙を開封し、内容を読んでみる。


【やぁ、元気かい?なんて愚問か。なんせ今日はバスケで珍しく点を決めてたくらいだし?いつもはアシストばかりの君が点を決めるから、ビデオを忘れたのを悔やんだよ!】

から始まった手紙の長いこと。
この薄い手紙には似つかわしくない、文章量だ。

レオナルドは一瞬読むのをやめようかと思ったが、まだ授業には早いし、ここまで読んだら最後まで呼んでも大して意味は変わらないと、再び手紙に視線を合わせた。


【ーー…俺と君はやっぱり最高のパートナーだ!どれくらい最高かって?そりゃあ、例えどんなに離れてても、最終的には一緒になるくらい、もはや運命と言えるくらいに最高なパートナーだよ。それじゃあ今日はこのへんで。また手紙書くから待っててね!】


「(なるほど…、意味わからん)」



一人ロッカーに向かって、納得していると、背後に気配と影が出来る。
ちょっと、ドキッとしたが振り返る前に声で誰かすぐに分かった。



「ようー陰毛頭!テメェ、ロッカーと何遊んでんの?」


「ザップさん、…ったく、ロッカーと遊んでるわけねーでしょ、馬鹿ですかアンタ。」


「バカちげーし!ん?なんだソレぇ?もしかしてラブレター?いっちょ前に?!見せろ!!」

「っていう前に奪ってるし。知りませんからね、僕。」


「あ゛ーどういう意味だ?えーと、なになに、………陰毛ー何、この手紙?!」


「だから言ったのに」


「キモ!この手紙何?!ってかマジキモ!しかも内容がまたキモ!どんな勘違いヤローの手紙だよ!いや、オンナか」


「キモ以外言えねーのかアンタ。読めば分かるでしょ。ストーカーからの手紙です。というか僕は一言も女の人って言ってないでしょ。」


「え、どゆこと??」


「だから、男のストーカーからの手紙ですって」


「…オマエ、えらい冷静ね?」


「そりゃあ、流石に慣れたので」



ついでに男だと分かったのは随分、前だ。
ご丁寧に二通目くらいの手紙に書いてあった。
といっても性別しか書いてなかったので、容姿や年齢は手紙では分からないが。



「気にしてねーの?」


「コレといって害はないので。(たまにオカズにされてるっぽいのは黙っておこう)」


「…ふーん。ま、なんかあったら言えや」


「ありがとうございます」


「それより、白衣かせ」


「(ええー…関係ねー。ってか先輩のくせに後輩から借りるとか)」


「早よ貸せ!」


「…珍しいですね。忘れたら休むくせに。本当に授業出るんすか?」


「……急に担当がかわったんだよ、フェムトとかいうヤローに」


「あー、あの先生。そりゃヤバいっすね。まぁいいですけど、ちゃんと授業以外で汚さずに返して下さいよ?あとサイズに関しては知りませんからね!」


「レオクン小さいでちゅからねー!」


「うわっムカつく」



ザップは散々レオナルドを小馬鹿にしてかまい倒すと、白衣を手に消えた。
とりあえず、変なヨゴレ(女性関係含む)が付かないことを祈るばかりである。
そのままレオナルドは、自分も必要な教科書を手にとって教室へと向かった。

ザップに構い過ぎて時間はギリギリだったが、移動教室にはまだちらほらとしか人数が居なかった。
基本的にこの教室を含め、全ての教室が大きいので、人で埋まることはないが、レオナルドはあえて、人の少ない真ん中の場所に座る。

黒板が見やすいし、先生からは微妙に手元がバレにくいからである。
何より、この微妙な席に座りたがる奴は少ないので、机を広々と使える。

レオナルドは授業に必要な道具を机に使いやすく並べると、最近ここの学生の必需品となった鏡を取り出した。
といっても周りが持っているから何となく合わせただけで、レオナルドにはあまり必要性のない道具だ。
なんせ周りの真似をして、どんなに髪をいじっても、このテンパは落ち着いてくれない。

それでもレオナルドは周りの学生たちと同じように、手鏡よりは少し大きめの鏡を机の上に設置した。


レオナルドは設置した鏡を見ながら、髪をいじるフリをする。そのまま、不自然にならない程度の動作で机の上の鏡を後ろの入口が見えるように少しズラした。




ズラした鏡には入口付近に立ち、壁に寄りかかりながら腕を組んでいる男が見える。

男は小さい鏡越しでも分かるくらいに高身長で、均整のとれた身体をした、顔に『傷』はない美形だった。



「…ふふっ。あれで、バレてないつもりだから面白いんだよね」



その男は先程のある意味熱烈な手紙を寄越した、たぶんちょっとマニアックであろう(なんせ同性どころかチビ糸目な)レオナルドのストーカーだ。



「…いつになったら、直接逢いに来てくれるかな?…ねぇ、スティーブンさん」



レオナルドは鏡ごしの男にうっとりとした顔で笑いかけた。



end。


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レオナルドには前世の記憶あり。ザップなし。スティーブンはあり。でも、スティーブンはレオが記憶持ちとは知らないので、色々こじらせてストーカーに。
前世は恋人だろうがなかろうが面白いが歪んだ恋愛な気は否めない。

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