血界戦線

□蝙蝠拾ったった。
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異界と現世が交わる入り混じる街の名はHL。
その街には永遠の虚と呼ばれる場所があり、宿敵である血界の眷属が巣穴のごとく群れでいると噂されている。

それ故にか、このHLでは他の国などに比べ、血界の眷属の出現を多く見られる。



「(血脈門の開放を確認、かぁー)」



報告がなされたのは、昼過ぎ。それから秘密結社ライブラのメンバー総出で、血界の眷属を探したが、数時間経った今でも発見の連絡はない。

彼か、彼女か…血界の眷属は永遠の虚にでも引っ込んでしまったのだろうか。

血界の眷属は厄介な宿敵だが、『食事』をしなければ、自分たちには探す手だてはない。
見分ける方法があっても、この街全ての生き物に鏡をかざすことが出来なければ、見つけられないのと同じだ。



「…これは、また徹夜コースか?」



自分の声は思いの外、一人待機をしている事務所内に響いた。



それから数時間、書類整理をしながらライブラの事務所で過ごしたが、血界の眷属の発見の連絡は終ぞ無かった。

今日は諦めるしかないと思うくらいには見つからないし、捜索から戻ってきたメンバーには疲労が見えた。
緊張しつつの捜索となればそれも仕方ないのかも知れない。
これじゃあ、いざという時誰も動けないと、副官としてメンバーには帰宅するように告げると、多少納得はしていない奴らも居たが、最後には帰っていった。


一人きりの事務所は静かだ。
だから、つい独り言を言ってしまう。



「あ゛ぁ゛ーねむい」



血界の眷属が何だというのか。
そんなもので腹は膨れないし、眠気が消えたりもしない。



「(…否、眠気は消えるか)」



だいたい、こっちは連日の書類整理に連日徹夜だったんだ。
今日こそ帰れる、寝れる!と思っていたのに、血脈門の開放とか。
おかげで完全に帰るタイミングを逸した。
正確にはどこぞの屑な部下が捜索中にチンピラとやりあって、始末書が増えたせいだ。



「(昼過ぎのは完全にフラグだった)」



何故、あんなことを口走ったのだろう。
徹夜コースとか言わなきゃよかったと頭を抱えても、もう遅い。

疲れた、眠い、寂しい。
ぐるぐる言葉が回るが仕事をする気にもならない。



「…諦めて帰ろ」



人間疲れすぎたら動く気にもならないが、帰るとなると急に動けるものだ。
先ほどのノロノロが嘘のように机を片付けると事務所を出た。


外はHLとは信じられないくらい静かだ。
事務所の入り口が路地裏にあるからだろうか。



「あ゛ー運転面倒くさい」



深夜なのだから外が暗いのは当たり前なのに、認識した途端力が抜けた。
こんな夜の中でも暗い時間に己は何をしているのか。

帰りたいのに、歩くのも運転するのも面倒くさい。

車はあるのだから、いっそ私設部隊の誰かを呼んで運転してもらおうか。


ぐるぐる無駄に思考を回して、時間だけが過ぎていく。



「(これじゃあーらちがアカン)」



やっと諦めると携帯端末を出して、私設部隊のひとりに連絡をとった。
すぐに向かうと返されて初めて、タクシー呼べば良かったと気づいたがもう遅い。
とりあえず、車がある場所へと進もうと足を動かしたら、何かを踏んだ。



「ぎゅー?!」


「うわっ!?」



ふぎゅっとした感触と謎の鳴き声。
端末を出して、退けた足下を照らすと、ソイツはいた。



「コウモリ?」



プルプルと小刻みに震えた、黒くて自分の小指サイズしかない小さなコウモリが地面にへばりついていた。



「ちっさ!」



コウモリとはこんなに小さかっただろうか。
それともまだ子供なのか。
豚鼻のような低い鼻、羽には毛がないように見えるくせに、頭や胴体にはふさふさの毛。
尖った三角の耳に、小さい割に思いの外鋭く細かい歯。



「…目は?」



目がない!目がないコウモリ!



「あ、あった」



線かと思うくらい細い糸目がちょこんと顔に添えてある。
しかも、糸目のくせにまつげは長い。



「ねてる?」



だとしたら、ズルい。
自分は寝たくても我慢して今まで過ごしていたというのに。



「ねるなー、おーい?」


「何をしているのか聞いても?」


「ん?あーきみか。コレみえる?」



迎えにきた私設部隊の男に見えるように足下を指す。



「コウモリ、ですか?」


「そう。コイツ、人が眠いの我慢してるのに先に寝るから」


「……たぶん、弱っているだけかと」


「そうなの?じゃあもってかえろ」


「え?」


「ん?」


「……コウモリは感染症が怖いと聞くのであまり素手はよろしくないかと」


「へー。」



ならば包むものを探すが、見当たらない。
ついでにハンカチは連日の徹夜で事務所に置いてある分のストックが昨日きれた。

見かねたのか私設部隊の男がタオルを寄越してくる。
タオル持ち歩いてるとか、すごいな。



「あ、思ったよりあったかい」



バイブレーションかと思うくらいに震えつつも、コウモリは暖かい。







「…それ、血界の眷属とかの可能性は?」


「えー?一匹なのに?」



私設部隊の男が運転する車に揺られながら答えると男は黙った。
聞いておいて、何故悩んだ顔をするのか。



それから車内は静かなまま自分の住むマンションについた。


小さなコウモリを持ったまま車を降りる。



「あ、コウモリの飼育にひつよーなもの見繕ってとどけて」


「……」


「なるべく早くねー、っておーい?」


「…畏まりました」



私設部隊の男に仕事を言いつけると、小さなコウモリをタオル越しに持って家に入った。



「コウモリってあらっていいかな?」




寝不足で回らない頭のまま、持ち帰ったコウモリが血脈門の一匹だと知るのはもう少し後の話。
ましてそのコウモリが神々の義眼を持つと知るのは、それよりもう少し後のことである。




end…?

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